※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 デルミーラは顔面蒼白のまま、首を横に振っていた。思わぬ事の真相に、ヒエロニムス伯爵をはじめとした周囲は、完全に言葉を失っている。


「出せ」

「へ……?」

「持っているんだろう? クイニン石を! 早く、出せ!」


 クイニン石は、マルアリア原石と対になる石だ。中毒状態を緩和し、解消へと導く力がある。
 これまでキーテが体調を崩しつつ、すぐに回復をしていたのは、デルミーラがクイニン石を持っているからに違いない。


「こ……これ…………これよ」


 デルミーラはおずおずと左手を広げる。白い小さな石がそこにあった。すぐさまその石を引っ手繰り、キーテの手のひらに握らせる。


「ん……」


 キーテが苦し気な唸り声を上げる。けれど次の瞬間、ゆっくり、ゆっくりと彼女の顔に生気が戻っていくのが分かった。


「キーテ!」

「キーテ様!」


 目に見えた回復を見せるキーテに、皆が歓喜の涙を浮かべる。
 ただ一人――――デルミーラだけが、まるで抜け殻になったかのような表情で、その場に屈み込んでいた。


< 310 / 528 >

この作品をシェア

pagetop