※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
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 キーテが完全に回復するまで、実に一ヶ月の時間を要した。飲まされた毒の量が多かったからだ。もしもあのままマルアリア原石を握り続けていたら、キーテは助からなかったかもしれない。そう思うと、エルベアトは今でもゾッとしてしまう。


 デルミーラは修道院に送られることになった。数年間に渡り、妹を苦しめ続けてきたのだ。かなり寛大な措置と言えるだろう。

 けれど、そんな彼女の処遇に一番胸を痛めたのは、被害者である筈のキーテだった。


『姉さまも最初は、純粋に私のことを心配してくれたんだと思うの』


 母親を亡くし、失意に暮れ、体調を崩した妹を必死で看病する――――それが全ての始まりだった。

 周囲はそんな彼女を『健気で優しい天使のよう』だと褒め讃える。その快感が忘れられなかったのだろう。キーテが苦しみ続けるよう、悪事に手を染めるようになってしまった。

 恐らくはデルミーラ自身、母親を亡くして寂しかったのだろう。ぽっかりと開いた胸の傷を、キーテを使って塞ぐようになってしまった。キーテよりも余程、デルミーラの方が病に侵されていたのである。


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