※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

23.呪われ公爵は愛せない(1)

「初めに伝えておきたいのだが――――俺が君を愛することは無い」


 ハルリーがそう宣言されたのは、結婚式の直後だった。


「愛することは無い……ですか」


 大きな瞳をパチパチと瞬かせ、ハルリーは小さく首を傾げる。
 フワフワの柔らかいストロベリーブロンド、雪のように白い肌、鮮やかに色づいた頬や唇、小柄で華奢な身体つき。男たちの庇護欲を擽る、未だあどけなさの残る少女だ。パステルカラーのウェディングドレスは、可憐な彼女に良く似合う。春の花々のような陽の気を身に纏った女性である。

 対する夫、アンブラ・カドガンは、髪から服に至るまで、全身が黒色に包まれた大男だ。長く重たい外套を身に纏い、垂れた前髪が鋭い眼光を覆い隠す。目鼻立ちはスッキリと美しいものの、全身から放たれる闇のオーラから、自ら望んで近付く人間は存在しない。ハルリーとは正反対の性質を持つ男性だった。


「君のような若い女性が、俺のような恐ろしい男と結婚するなど、さぞ不本意だろう。領地のためとはいえ、気の毒だとは思っている。贅沢な暮らしは約束しよう。浮気もして貰って構わない。
その代わり、俺からの愛情は求めないで欲しい」


 しばしの沈黙。ハルリーはまじまじとした表情で、アンブラのことを見上げている。


「他に何か条件が必要なら――――」

「構いませんわ」


 花が綻ぶような笑みを浮かべ、ハルリーが大きく頷く。


「アンブラ様も、条件はそれだけで宜しいですか?」

「…………ああ」


 穏やかで温かな空気。予測していたのではないかと勘繰ってしまう程に、彼女からは動揺の色が窺えない。


(彼女もこうなることを望んでいたのだろうか)


 先程妻になったばかりのハルリーを見下ろしつつ、アンブラは心の中でため息を吐く。己の纏う暗闇が、彼女を蝕むような感覚に、ブルりと身体が震えた。


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