※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「全く、魔女も意地が悪いよね。どうせならさ、男の方が異形の化け物になっちゃうような呪いを掛けたら良かったのに。そしたら、魔女以外の女性は逃げ出して、独り占めできたかもしれないのに、って思わない?」

「…………そんな魔法があるなら、今すぐ俺に掛けて欲しい位だ」


 そうすれば、ハルリーだって自分から離れていくだろう。アンブラを見つける度に瞳を輝かせることも、駆け寄ってくることも、花のような笑みを浮かべることだって、きっとなくなる。そう思うと、胸のあたりがチクリと痛んだ。


「でもさ、案外、君の奥さんだったらそれでも平気かもしれないよ。全然物怖じしないし、化け物を見たところでケラケラ笑ってる気がする」

「……どうだろうな」


 ハルリーはこれまで一度も、アンブラの対応に怯んだことがない。どれだけ冷たい眼差しを向けようと、心無い言葉を浴びせようと、いつだって真っ直ぐに彼を見据え、それから花のように微笑むのだ。


「で? 本当に俺が君の奥さんにアプローチかけちゃって良いの? いくら自分から目を逸らしたいからって、やりすぎな気もするけど」


 と、言いつつ内心ワクワクしているらしい。リヒャルトはニヤニヤと口の端を綻ばせる。


「…………好きにしろ」


 胸の奥底から息を吐く。己の身体から闇が溶け出すような心地がした。


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