※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

23.呪われ公爵は愛せない(3)

***


「ハルリーさんがつれないんだ」


 それから数日後のこと。二人きりの書斎の中、リヒャルトがそんなことを口にする。


「おまえに対してはあんなに健気で素直なのにさ、俺に対してはどこか素っ気ないっていうか」

「……だからどうした?」


 休暇中のリヒャルトはともかく、アンブラは絶賛仕事中だ。鬱陶しさに顔を顰めれば、リヒャルトは小さく笑う。


「なぁ……おまえ、最近鏡見た?」

「鏡? 何を意味不明なことを」


 不機嫌な声音。すぐに手鏡が目の前に差し出される。その瞬間、アンブラは小さく息を呑んだ。


「見てみ? 『嬉しい』って顔に書いてある。ハルリーさんを前にしたおまえ、いっつもそんな顔してるぞ」

(そんなこと――――――)


 アンブラは何度か口を開き、それから閉じる。


(否定ができない)


 締まりのない唇。紅く染まった頬。顔は口ほどにモノを言う。これと同じ表情を、ハルリーに向けている自覚があった。


「認めてしまえよ。おまえはもう、ハルリーさんのことが好きなんだって」

「……いや、それはあり得ない」


 好きになってはいけない。愛するなど論外だ。そんなことをすれば、彼女のあの笑顔が失われてしまう。


「素直になれよ。呪いなんて馬鹿げたもんに惑わされるな。自分の心に嘘を吐いて、それで幸せだって胸張って言えるのか? おまえ自身の幸せを――――」

「――――離婚、しようと思っている」

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