※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「おまえ……」

「失礼いたしました。少し、よろけてしまって。お二人にお茶を勧めに参ったのですが……」


 彼女の後ろには準備に駆り出された侍女達が並んでいる。けれど、表情から察するに、どうやら会話の内容が聞こえたのはハルリーだけらしい。


「わたくし、少し具合が悪くなってしまって……後をお願いできますか?」


 そう言ってハルリーは、いつもの様にニコリと微笑む。けれど、彼女の瞳には、薄っすらと涙が溜まっていた。


「ハルリー……?」


 どれだけ邪険にされても、決して流すことのなかった涙。これまで、冷たい言葉を浴びせられても、一度も動揺を見せたことのなかったというのに。


「追えよ」


 呆然と立ち尽くしたアンブラに、リヒャルトが言う。侍女達も気づかわし気にハルリーの方を振り返っている。


「…………いや」


 これで良いと――――そう思えたらどれだけ良いだろう。


(俺がハルリーを泣かせた)


 ドクンドクンと嫌な音を立てて胸が鳴る。悲し気な彼女の顔が脳裏にこびり付いて離れない。
 けれど、これでハルリーはアンブラと距離を置くようになるだろう。いずれは彼を嫌いになり、寄り付きもしなくなる。優しく微笑んでくれることだって――――


「…………っ!」


 気づいたら、アンブラは勢いよく走り出していた。


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