※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

30.褒めて、認めて、私を愛して(1)

 公爵令嬢ティアーシャ・フレンゼルは超が付く程の目立ちたがり屋だ。

 父親は国一番の資産家、母親は隣国出身の元王女。
 眩いプラチナブロンド、宝石のように煌めく緑色の瞳を持ち、女神のような美貌を誇る生粋のお嬢様だ。
 そんなやんごとなき生まれのせいだろうか。相当な自信家で、周囲にありとあらゆる自慢をして回っている。

 最先端のオートクチュールで埋め尽くされたクローゼットに、国宝級のジュエリーがギッシリ詰まった宝石箱。王城に勝るとも劣らない広大で豪奢な屋敷に、豊かな領地。果ては、愛らしいペットや王室御用達の茶器、美術品の数々、隣国の王族との関りに至るまで、彼女の自慢話は非常に多岐にわたる。 


(よくもまあ、あんなに話題が尽きないもんだ)


 ティアーシャをぼんやり眺めつつ、ノアは小さく息を吐く。

 貴族と言うのは見栄と嘘で塗り固められた生き物だ。虚栄を張り、体面を保ち、そうして特権を享受し続ける。
 だから、自慢話をするのはティアーシャだけではない。寧ろ、クラスの人間の殆どがそうだ。

 けれど、ティアーシャのそれは、ノアから見ても明らかに突出していた。

 いつでも、何事にも一番になれるよう、神経を研ぎ澄ましているように思うし、それだけの努力をしていることも見ていて分かる。けれど、噂話に敏感で、誰かが褒められるのを見る度に酷く傷ついたような顔をする。


(あれだけ持っているんだ。普通はもう十分だろう?)
 

 誰もが羨む程の美貌に財力を持ち、知力に優れ、あらゆる分野の才能に恵まれている。それなのに、これ以上何を望むというのだろう? ノアにはそれが不思議で堪らなかった。


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