※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?

30.褒めて、認めて、私を愛して(2)

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 侯爵令息ノア・ディートリヒは、変わった男だ。

 由緒ある侯爵家の二男であるというのに、偉ぶったところが一つもなく、誰かとつるんでいる様子もない。かといって、社交下手かと言えばそういうわけでも無いようで、要所要所を押さえている。

 それから、いつもどこか一点をじっと見つめ、微笑んだり、首を傾げたり、場所を変えて眺めてみたり、不思議な動きをする人という印象だった。


(あれは、気になった物を観察していたのね)


 長い前髪から覗く鮮やかな青い瞳が、目の前のティアーシャを真っ直ぐに見つめる。虚栄心も嘘もなければ、欲すらも削ぎ落された無垢で澄んだ瞳だ。
 ノアと一緒に居ると胸のあたりがざわつく。己の内面を覗かれているような、暴かれているかのような気分になる。

 彼と過ごすようになって以降、ティアーシャは己を客観的に見るようになった。というより、彼の絵を通して視ざるを得なくなったというのが正解だ。

 何よりも他人の目を気にしていた筈なのに、ティアーシャには肝心の己の姿が全く見えていなかった。ティアーシャを彩るのは見栄でも嘘でも無いけれど、彼女の内面は何処か虚ろで、溢れかえる自慢話で己を武装しているかのような、そんな印象を受ける。


「ノア様は将来、どうなさる予定ですの?」

「どう、とは?」

「絵をお仕事になさるおつもりなのですか?」

「まさか。二男ですし、家族からは好きにしていいと言われていますが、これでも貴族の端くれですから」

「ノア様のご家族はそのう……仲がお悪いのですか?」


 ふと、これまで抱いてきた疑問をぶつけてみる。ノアはキョトンと目を丸くし、クスクスと笑い声をあげた。


「いいえ。家族仲はすこぶる良好ですよ?」

「そう……ですか」

「どうしてそう思われるのです?」


 今度はノアが尋ねる。己の本質に容赦なく切り込まれている感覚がして、ティアーシャは静かに息を呑んだ。


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