※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 静かな室内に、紙片と木炭が擦れる微かな音が鳴り響く。


「――――婚約を解消されたそうで」

「あら、もうお聞きになったの?」


 質問に質問を重ね、ティアーシャは静かに微笑む。


「あなたはいつでも話題の中心ですからね。そう言った情報はすぐに入ってきますよ」


 応えながら、ノアはティアーシャをまじまじと見つめる。


「……悲しくありませんか?」

「いいえ、ちっとも。これがそんな表情に見える?」


 ティアーシャが微笑めば、ノアは首を横に振る。

 ティアーシャはもう、誰かに褒められたいとは思わない。話題の中心に居ることだって、嬉しいとは思わない。あんなにも強く『認められたい』『褒められたい』と思っていた筈なのに、人は変われば変わるものだ。
 
 豪奢で煌びやかだったティアーシャの私室は、随分とものが減り、シンプルかつ優美な空間へと変貌を遂げている。彼女が着ているドレスも、美しい素材をそのまま生かした上品なデザインへと変わっていた。


「……実は俺、ティアーシャ様のお陰で、最近承認欲求というものが理解できるようになってきまして」

「あら、そうなの?」


 無欲で、承認欲求とはかけ離れた人だったというのに、一体どういう心境の変化だろう? 尋ねれば、ノアは僅かに頬を染め、静かに視線を泳がせた。


「貴女と……貴女のお父様に認められたいと思っています」

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