※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「あ、アイナ……」

「アイナ⁉ まさか――――そんな! アイリーンがラグエル伯爵の娘だというのか⁉」


 ああ、なんてみっともないの。見ていて思わずため息が漏れる。

 ダミアンの言う通り。本当に人間っていうのは愚かな生き物だ。
 己の欲望のために平気で他者を陥れ、嘘を吐き、その癖、悪事がバレたらブルブルとあられもなく取り乱す。


「情けないざまね、お義母さま。どうせなら、開き直るぐらいの気概を見せなさいよ」


 悪党なら悪党らしく。
 変に足掻いたりせず、己の行動を誇るぐらいの姿勢を見せてほしいもの。
 悪に染まりきる覚悟もない癖に、中途半端に悪ぶるのだからたちが悪い。


「あ……あぁ…………」

「さて、アイナ。この二人をどうしてやろう?」


 ダミアンは満面の笑みを浮かべ、あたしに向かって問いかける。
 今の彼は擬態も何もしていない。悪魔そのものの姿だ。


「魂を奪ってやるか――――いや、殺す前に魔獣達の餌にするのが良いだろうか」


 義母とロズウェルの顔に恐怖と絶望が張り付く。あたしは思わず小さく笑った。


「ダメよ、ダミアン。そんなんじゃ全然足りないわ。
この二人にはもっともっと生地獄を味わわせないと。
他にも余罪がたくさんありそうだし、この二人に恨みを抱いている人間は多そうだもの。その人達が知らないところで、勝手に罰を与えるなんて許されないわ。
この二人はね、衆人環視の元、己の罪を詳らかにされるの。それから人々の嘲笑を一身に受け、悪魔だと散々罵られ、惨めにみっともなく、長く苦しみながら、一人寂しくその生涯を終えるの――――そうでないと、あたしの気が済まないわ」


 一思いに死なせてなんてやらない。
 生きて苦しめ――――あたしの言葉に、二人は膝から勢いよく崩折れた。



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