※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「あの……余計なことをしてごめんなさい」


 クロシェットが言えば、男性は目を丸くし、大きく首を横に振る。


「余計なことだなんて、とんでもない。助かりました。心から感謝します、聖女さま」

「…………聖女? 一体、誰のことでしょう?」


 首を傾げたクロシェットに、男性はまたもや驚く。


「もちろん、貴女のことですよ。だって、そちらのお二方は、神獣でございましょう?」

「お二方……ってウルとフェニのこと? そんな、まさか」


 神獣だなんて。
 これまで誰にも――――ザックたちには、彼等が特別な存在とは言われなかった。居て当然というような扱いを受けてきたというのに。


『いかにも、我等は神に仕えるものだ』


 ウルが答える。
 クロシェットは驚きに目を見開いた。


「そんな……! だけど二人とも、そんなこと、これまで一言だって……」

『言えばクロシェットは、壁を作ってしまうだろう? 
たとえ神獣だとしても、君にとってはただのウルとフェニだ。神獣という名称など、なんの意味をなさない。そうは思わないか?』

「そうだけど……」


 そうとも知らず、二人にかなりの無理をさせたのではないだろうか? 魔獣の討伐など、させるべきではなかっただろうに。


『我等は神の遣い。神に愛された娘――聖女である君を護ること、願いを叶えることもまた、我等の使命だ。クロシェットが気に病む必要は全く無い。我等が進んでしたことだ』


 そう言ってウルは、クロシェットに向かって頭を垂れる。フェニもまた、同じように頭を下げた。


「そんな……」

「……貴女はご自分が聖女だとご存じなかったのですか?」


 男性が尋ねる。


「ええ。そんなこと、夢にも思わなくて――――」


 しかし、思い返してみれば、ウルやフェニだけは『クロシェットは特別な存在』だと言い続けてくれた。他の人間が全くそういう素振りを見せなかったので、全く実感がなかっただけだ。


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