※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 六十一日目。


「おはよう、マイリー」


 殿下の朝は、相変わらずキラキラしい。


「おはようございます、殿下」


 他の侍女たちと一緒になって、わたしは殿下に頭を下げる。
 侍女としての仕事に慣れてきたわたしは、最近では殿下のお召し替えもお手伝いするようになっていた。目に毒だし、めちゃくちゃドキドキするし、全く慣れそうな気配はないけど、仕事だから仕方がない。殿下から香るコロンがあまりにも扇情的で、毎回息を止め、決死の覚悟で挑んでいる。


「今日は撮らなくて良いの?」


 なのに殿下は、耳元でそんなことを囁いた。
 思わず息を吐きだし、それから思い切り吸い込んだせいで、咽かえるほどの色香に見事に溺れる。
 必死に首を横に振って熱を逃していると、殿下はクスクスと楽しそうに笑った。


「年下を揶揄うのはお止めください」

「ん? 俺はマイリーが同い年であったとしても、同じことをしてると思うよ」


 殿下は全く悪びれることなく、そんなことを口にする。


(わたしが言いたいのは、そういうことじゃありません!)


 本当はそう主張したいけど、先輩たちの目もあるし、さすがに侍女の分を超えている。わたしは必死で言葉を飲み込んだ。


「あぁ、そうだ。今日は午後から来客があるんだ。マイリーにお茶を頼んでも良い?」


 すると殿下は、わたしに向かって直接そう尋ねた。悪戯っぽい笑顔。含みがあるのは明白だ。


(もしかして……)


 早速今日、殿下の言う想い人が来るのだろうか。だからこそ、わたしが現場を押さえられるように、取り図らってくれたのかもしれない。


「承知しました」


 そう言って深々と頭を下げる。そのまましばらくの間、顔を上げることが出来なかった。



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