続・23時のシンデレラ〜甘い意地悪なキスをして〜
「此処か……」

(さび)れた、小さな工場の前に、俺は車を停めると、取れかかっている『綾乃金物店』と記載されている小さな看板を確認してから、事務所へと向かった。

ちらりと工場を見れば、金型のサンプルが作業台に所狭しと置かれており、数人の従業員が、黙々と作業をしている。

(主に、スプリングのバネを作って卸しているのか)

事務所扉をノックしようとした時だった。

「……安堂、颯副社長でしょうか?」

背後から聞こえてきた声に、俺はすぐに振り返った。

そこには、実花子から見せてもらった写真通り、以前親父と喫茶店で会っていた、綾乃和志が、背中を丸めて立ちすくんでいた。



案内された事務所の端に置かれた、簡素なステンレスのテーブルに、和志が、缶コーヒーをコトンと置く。

「申し訳ありません、このような物しかなくて……」

「あ、いえ、僕こそ、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。美弥さんと婚約させて頂いている、安堂颯です」

頭を下げた俺に、和志が慌てて手を振った。

「とんでもないです!どうか顔を上げてください……」

和志は、俺にソファーに座るように促すと、自身も座り、僅かな時間口を閉ざした。

俺は、和志より先に、此処に来た一番の目的を伝える。

「美弥が居なくなって探してます。何かご存じありませんか?失礼ですが、父とも以前喫茶店で話をしていましたのよね?僕見かけた事がありまして」

途端に、和志の表情は、青ざめていく。

(当たりか……美弥に何言った?)

「……申し訳ありませんが……お話できるような事は……」

康二の名前を出した途端、明らかに和志の視線が泳いでいる。
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