落ちこぼれ白魔術師ですが、潜伏先の幻獣の国で賢者になりました ~絶対に人間だとバレてはいけない、ドキドキスローライフは溺愛付き~
 キドを引き離すマインの声が突然途切れた。顔を上げると、大きく目を見開いたマイン、呆然とするキド、蒼白になったホミが見え、私はハッとした。
 きっと髪がぐちゃぐちゃで、とんでもない姿になっているんだわ! 恥ずかしい、早く直さないと。
 慌てて髪を整えようと、頭に手をやった。
 すると……あるはずのものが、ない。私の頭からは、ネコ耳ヘアバンドがなくなっていたのである。どこにあるのかと目を彷徨わせると、それはキドが握り締めていた。揉み合っていて、気付かずに掴んでしまって……。
 いや、冷静に分析している場合ではない。
 今、全員が驚きの眼差しを私に向けている。トネリもマゴットも、ファルもブラウンも、言葉をなくして立ち竦む。ティアリエスの横に立つ、黒く大きな影を目の端に捉え、咄嗟に目を逸らした。ヴィーが今どんな表情をしているか、考えるだけで呼吸が止まりそうだったのだ。
「お、お姉ちゃん? お耳が……」
 キドが震えながらヘアバンドを差し出した。彼は、私の耳を捥いでしまったと思っているらしい。
「パトリシアさん。あなた人間だった、の?」
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