瞳の中の住人
 綾音とは別の女子も、まれにだが現れるようになった。

 アルバイト先も大学の学科も同じで、聡明で意思の強そうな美人だ。

 名前はわからなかったが、彼女が『彼』に惹かれているのはすぐにわかった。夢が進むにつれて、彼女は行動し、『彼』に告白をしたようだった。どう返事をしたのかはわからなかったが、オーケーでないことは明らかだった。

『彼』は書店でのアルバイト代を確認して、スマートフォンに入れた日付を再三見つめ直していた。

 十二月二十六日がだれかの誕生日らしく、その日までにお金をためているとわかった。

 名のあるブランドショップで、女性もののかわいらしいネックレスを選んでいて、そのために貯金をしているようだった。

『彼』にも特別なだれかがいたのだろう。告白されるたびに断っていた理由に、ふれた気がした。

 *

 その日。夢に何度も出てきた喫茶店を少し遠巻きに見つめ、僕はため息をついた。

 一日に数回あった白昼夢も、今では二日に一度ぐらいに減り、外出する時間もふえていた。
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