裏側の恋人たち
『お姫様気分を味合わせてあげる』なんて口説き文句で女性を食いあさるドクターがいると聞いていたからどんな奴だろうと思っていたんだよね。

「初めからお持ち帰りを狙われてたって気がついてましたよね」

「勿論よ。レディキラーばかり勧めてくるんだもの。『嬉しいわ、一緒に同じものを飲みたいです』って言って散々飲ませて最後にビトウィーンザシーツで沈めてやったわ」

「姐さん、さすがです」パチパチパチと佐野くんが拍手してくれた。

「俺の友達の彼女とか同期の中で一番かわいいマドンナ的な子が奴の毒牙にかかってて。確かに合意の上で無理矢理ではないし。でもちょっと不愉快でしょ、そーゆーのって。まあ僻みなんですけどね。その上、仕事中も横柄で嫌味な奴だった。それでも俺たちは就職したてでドクター相手に何も出来なくて。そんなときにふたば台病院の美人ナースがみんなの前であいつを潰してくれたって聞いてーーーそれだけでもスッとしました。」

だからわたしに恩って言ったのか。
私はむかついたから自分のためにやっただけだし、恩を感じなくても大丈夫。
それより、福岡先生からの何やってるんだって視線がとっても痛いんだけど。


「じゃあ佐野くんは初めから私のこと知っていたのね」

「はい。でも近付くタイミングなくて、日曜のイベントに姐さんが参加するって知って俺も申し込んだんですよ」

なるほどね。
初めから佐野くんがわたしにフレンドリーだった理由がわかった。

「改めて、その節はありがとうございました。スカッとしました。バーのカウンターでアイツが酔い潰れてよだれ垂らして寝てた姿を見られなかったのは残念でしたけど」

「アレを連れて帰らなきゃいけなかった研修医のセンセーには悪いことしたと思ってるけどね」

アレが私に誘いをかけてきたのが三次会の場だったから。アレは自分の後輩やナースたちの前で醜態をさらす羽目になったのだ。

たぶん、私は悪くない。
自分の酒量の把握が出来ていなかったアレが悪い。
あと、ドクターだからって、お金があるからって、ちょっとイケメンだからって誰でもお持ち帰れると思うな。


「だからといって、そんな危険な真似をしてーーー危機感足りなくないか?君は女性なんだよ。一歩間違えば・・・。」

福岡先生が渋い顔をする。

「大丈夫ですよ。私は自分の酒量はわかってますから。危ないと思ったらさっさと引くつもりでした」

「心配だなあ。もうそういうことはしてはいけないよ。危ないと思ったら電話して。迎えに行くから」

「いえいえ、そんな畏れ多い」

「僕の連絡先を教えるから登録して」そう言って先生はスマホを取り出した。
恋人でもない役職に就いているようなドクターを飲み会の迎えなんかに呼び出せませんって。

「女性は肝臓のサイズが男性よりも小さいんだから男性に張り合うなんてことをしてはいけないよ。もっと肝臓を労らないと」

ーーーああ、そっちですか。
医学的に心配してくださるってことですね。ははっ。

センセー恋愛下手すぎません?って隣で佐野くんが笑い転げていた。



福岡先生との距離感を測りかねる自分がいる。

何だか微妙な気持ちになった最終日の夜だった。





< 115 / 136 >

この作品をシェア

pagetop