裏側の恋人たち

翌日、うちの病棟はちょっとした騒動になっていた。

今夜の夜勤予定メンバーのひとりが急性膵炎で緊急入院になり、もう一人はぎっくり腰、さらにもう一人インフルエンザで欠勤になることがわかったのだ。
しかも、今小さなお子さんがいる人や妊婦さんも抱えていて急に夜勤に変更できるスタッフなど限られている。
運悪く、有給休暇を使って旅行に出ているスタッフもいたりして急な欠員に病棟は大騒ぎになった。

こんな時に役に立つのは私のような独身ひとり暮らしの中堅ナース。
日勤の途中で一旦退勤し夕方から出勤して朝までの勤務。いつもより8時間長い勤務で欠員を補う。
慣れない通し夜勤を二日間頑張るとあとは通常勤務で対応できるめどがつき、同じく急遽、今夜の夜勤勤務をすることになった愛菜と共に病院をあとにした。
今から6時間後にまた出勤だ。


「わたし昨日遅かったから今から夜の仕事まで昼寝が出来てラッキーかもです」
愛菜はぴょこんと舌を出した。

「三次会まで行ってたもんね。あれからずいぶん飲んだの?」

「いいえー。さすがに仕事のことを考えて飲むのは早めにやめたんですけど、格好いい人がいたんで遅い時間まで粘っちゃったんですよね」

「あらら。じゃあ夜勤時間までひと眠りしないとだわね」

「そうなんです。先輩も来ればよかったのに。ホントにイケメンだったんですよ」

「で、うまくいったの?」

「きっちりいただきました」

ふふふと意味ありげな笑顔を浮かべている愛菜。
あのいけ好かないドクターのせいでわたしは肉食ナースだと言われているけれど、本物はここにいる。

「あっそ。あんまり男性を泣かせちゃダメよ。あと食い散らかすのも」

「大丈夫ですって。さすがに今回はうちのトップの関係者なんですからその辺は考えてますって」
任せてくださいと胸を張る。

男と揉めたという話は聞かないけれど、聞く度に付き合っている彼の名前が違うからちょっと心配になる。
本当に大丈夫かしらと思いつつ愛菜とは駅で別れた。

わたしも昨夜は夜更かし気味だったし、身体を休めて夜勤に備えなければ。

思えば、昨夜の瑞紀はちょっと変だった。

疲れていたせいなんだろうけど、酔って皆に迷惑をかけるし。
いつもなら飲んでも紳士。
というか掴みどころがないところは飲んでも飲まなくても変わらないし、女性をあしらうのはお手のものなはずだったけど。

パーティー会場ではずいぶんと仲よさそうにしていたくせに慰労会中に何かあったのかしら。
追われると逃げたくなるとか?


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