裏側の恋人たち
昨夜コーディネーターの彼女を拒絶する瑞紀の言い訳の中に自分の話が出たことを思い出す。
あのやりとりでコーディネーターの彼女が瑞紀に彼女の有無を訊ねていたのだとわかったし、瑞紀が何と返事をしていたのかもわかった。
『彼女も奥さんもいないって言ったくせに』
『響は彼女じゃないよ。奥さんでもない』
彼女でも奥さんでもないは正しい。
じゃあこれはどうなんだろうか。
『コイツは”彼女”なんて軽い存在じゃないんだ。俺にとってはそれ以上』
『いろいろコイツじゃないとダメなんだ』
あれ意味深に見えて非常に瑞紀にとって都合のいい言い回しだ。
ブランクはあってもお互いの十代を知っている私たち。
付き合いたての彼女なんかよりお互いの家族までよく知っている知人であり、彼女や妻のように別れたら他人という関係じゃない。
瑞紀の自宅に出入りすることを許されているから、忙しい家主に代わりリビングのエアコン工事の立ち会いをしたことがある。
昔はともかく、今は確かにわたしじゃないと自宅に立ち入ることは許されない感じだ。
これ知らない人が聞いたら如何にも特別な存在みたいに聞こえる。
しかし、わたしは騙されない。
私はただの友人じゃなく『特別な友人』だ。
その証拠に私たちの間には色っぽい何かはこれっぽっちも存在しない。
ーーー夕方から朝まで働き、仮眠をとってまた夕方から朝までという勤務を2回やったところで過酷な勤務から解放された。
次の勤務は明後日の日勤。
「さすがに疲れましたね。朝日が眩しいです・・・」
いつも元気いっぱいの愛菜も疲れている。
「そうね。ちょっとハードだったわ」
そろそろアラサーの声がおいでおいでしている私はもっと疲れた。
よろよろと病院から出るわたしと愛菜に5月の日差しが容赦なく照りつける。
「眩しー、暑ぅーー」
こりゃたまらんと二人でタクシーに飛び乗った。幸い帰り道は同じ方向だ。
「先輩は今日も鳥越さんのとこに行くんですかぁ」
「行かないわよ。疲れたもの。寝る、もう目が腐るまで寝るつもり。愛菜は寝ないの?」
「私だって寝ますけどー、夜は例の彼と食事に行く約束をしてるんで寝過ぎて目が腫れないようにしないといけないんですぅ」
ああそうですか。
若い子はいいわね。それが私だったら浮腫んだ顔でデートの途中居眠りをする未来しか見えない。
「先輩は今までほとんど毎日鳥越さんとこに行っていたんですよね。それが3日も顔を出さなかったら鳥越さん寂しがってるんじゃないですか?」
「毎日じゃないし。行ってたのは多くて週に4回。それに仕事中毒の瑞紀が寂しがるはずないじゃない」
「そーですかねぇ。まあでも、それで鳥越さんに寂しいって気づかせたら先輩の勝ちですよ。長ーい恋煩い、いい加減気づいてもらえるといいですね」
うふふと笑う愛菜の額をぴこんっと指ではたいて「あんたはちょっと落ち着きなさい」とお説教をした。
あのやりとりでコーディネーターの彼女が瑞紀に彼女の有無を訊ねていたのだとわかったし、瑞紀が何と返事をしていたのかもわかった。
『彼女も奥さんもいないって言ったくせに』
『響は彼女じゃないよ。奥さんでもない』
彼女でも奥さんでもないは正しい。
じゃあこれはどうなんだろうか。
『コイツは”彼女”なんて軽い存在じゃないんだ。俺にとってはそれ以上』
『いろいろコイツじゃないとダメなんだ』
あれ意味深に見えて非常に瑞紀にとって都合のいい言い回しだ。
ブランクはあってもお互いの十代を知っている私たち。
付き合いたての彼女なんかよりお互いの家族までよく知っている知人であり、彼女や妻のように別れたら他人という関係じゃない。
瑞紀の自宅に出入りすることを許されているから、忙しい家主に代わりリビングのエアコン工事の立ち会いをしたことがある。
昔はともかく、今は確かにわたしじゃないと自宅に立ち入ることは許されない感じだ。
これ知らない人が聞いたら如何にも特別な存在みたいに聞こえる。
しかし、わたしは騙されない。
私はただの友人じゃなく『特別な友人』だ。
その証拠に私たちの間には色っぽい何かはこれっぽっちも存在しない。
ーーー夕方から朝まで働き、仮眠をとってまた夕方から朝までという勤務を2回やったところで過酷な勤務から解放された。
次の勤務は明後日の日勤。
「さすがに疲れましたね。朝日が眩しいです・・・」
いつも元気いっぱいの愛菜も疲れている。
「そうね。ちょっとハードだったわ」
そろそろアラサーの声がおいでおいでしている私はもっと疲れた。
よろよろと病院から出るわたしと愛菜に5月の日差しが容赦なく照りつける。
「眩しー、暑ぅーー」
こりゃたまらんと二人でタクシーに飛び乗った。幸い帰り道は同じ方向だ。
「先輩は今日も鳥越さんのとこに行くんですかぁ」
「行かないわよ。疲れたもの。寝る、もう目が腐るまで寝るつもり。愛菜は寝ないの?」
「私だって寝ますけどー、夜は例の彼と食事に行く約束をしてるんで寝過ぎて目が腫れないようにしないといけないんですぅ」
ああそうですか。
若い子はいいわね。それが私だったら浮腫んだ顔でデートの途中居眠りをする未来しか見えない。
「先輩は今までほとんど毎日鳥越さんとこに行っていたんですよね。それが3日も顔を出さなかったら鳥越さん寂しがってるんじゃないですか?」
「毎日じゃないし。行ってたのは多くて週に4回。それに仕事中毒の瑞紀が寂しがるはずないじゃない」
「そーですかねぇ。まあでも、それで鳥越さんに寂しいって気づかせたら先輩の勝ちですよ。長ーい恋煩い、いい加減気づいてもらえるといいですね」
うふふと笑う愛菜の額をぴこんっと指ではたいて「あんたはちょっと落ち着きなさい」とお説教をした。