裏側の恋人たち
「お前、いったいどういうつもりだ」

「どういうつもりもこういうつもりもないけど。上に来いだなんて瑞紀こそどういうつもり。今までそんなこと言われたことなかったしプライベートスペースには他人を入れない主義でしょ」

「お前は入ってたじゃないか」

「お出かけ前の着替え以外じゃエアコン工事の立ち会いと、それと給湯器の交換工事もあったっけ。そんなのお手伝いさんみたいなもんでしょ。
あ、アルコールのお代わり頂戴。
オーナーさんに頼むのが失礼なら他の人に声掛けるけど」

瑞紀は3回目の舌打ちをして渋々奥に引っ込んでいった。

何なの、あの態度。

目の前から瑞紀がいなくなってホホ肉を堪能することが出来た。
しかし、お皿が空になってもアルコールのお代わりが来ない。
まさか、嫌がらせかと思ったところで瑞紀が大きな箱を抱えて奥から出てきた。

「おい、出るぞ」

箱を小脇に抱えて反対の腕で私の上腕を掴み上げる。

「だから、私はここで食事をするって言ったじゃない」
イヤだと抵抗すると、瑞紀はチラリと店の入り口に視線を向ける。すると、三人連れが来店してスタッフに満席だと言われていた。

「今夜は満席なんだ。お前のその席を空けて欲しいといえばいいか」
私の左右両隣は空いているけど、私が横にずれても一席足りないーーー。

はあっとため息をこぼして諦めた。

「わかった。ホホ肉は食べたし、ワインも一杯飲めたからもういいわ。帰る。お会計して」

バッグを持って席を立った。

「会計はいいから行くぞ」

瑞紀がスタッフに目で合図をすると私がいた席は綺麗に片付けが始まり次の客を招き入れる準備がされる。

まゆみさんが口パクでごめんねと言い私は苦笑し首を横に振った。
すると続けて何か口パクで言っている。うーん、なんだろう。
四文字だと思うけど。
首を傾げるともう一度、まゆみさんの口が動いた。
『よろしく』?

瑞紀にぐいぐいと引っ張られて店から出される。
そんな追い出さなくても帰るつもりだったのに。ホントに失礼だな、この店。

「もう、引っ張らないでよ。ちゃんと帰るから」

「帰るってどこに」
「家に決まってるでしょ。まだ食べ足りないけど、残りは自分ちでお酒のみながら何かつまむから」
その手を離せと腕を払った。

「食料も酒も手に入れたから上で食えばいいだろ。ワインもあるぞ」
小脇に抱えていた箱はどうやら食料とワインらしい。

「お前の好物もある」
そう言って私の手を握って自宅に続く階段を上りはじめた。

あ。手、初めて繋いだ。

繋がれた手に驚いて反抗できずについて行ってしまう。
意思弱すぎだ。
瑞紀には私が期待するようなことをしないで欲しいんだけど。
私は瑞紀じゃなくて将来に対する不安を解消する道を選ぼうとしているのに。

瑞紀の手、大きい。そして温かい。

酔って肩が触れたりちょっとだけ腕をからめたことがあったけど、今までボディータッチとかなかったから。手を繋ぐなんて、ちょっと恥ずかしい・・・。

< 20 / 136 >

この作品をシェア

pagetop