裏側の恋人たち

響の場合 ③ 彼離れ

都会と比べるとかなり小さなビジネスホテルの食堂で夕食をいただく。
島巡りの出張健診が終わり明日は帰京するだけ。

健診最終日の夕食時に提供されるアルコール類はいつも理事長のおごりなんだそうでご褒美とばかりに皆遠慮なくグラスを空けていく。
太っ腹な二ノ宮理事長には感謝しかない。理事長ありがとう。二ノ宮家バンザイ。

疲れた身体に程よくアルコールが回り気持ちがいい。
ビールにチューハイ、焼酎。うん満足。
ホテルのスタッフが運んできてくれたお盆から「はい、ビールの人。こっちは酎ハイ。これは岡本さんのウーロン茶ね」とテキパキと渡していく。

「実は俺、ちょっと佐脇さんの事誤解してた。噂とは違うよね」
隣に座っていた技師の柴田さんが声をひそめて話しかけてきた。

柴田さんは私と同じふたば台病院に勤務している放射線科の男性技師だ。私より1つ年上で趣味はサッカー。二ノ宮グループのサッカーサークルに入っているらしい。

この2週間でチームのメンバーはこの程度のお互いの情報を知る間柄になっていた。

「それ、”肉食”ってヤツ?」
くすりと笑ってみせると柴田さんは申し訳なさそうに頷く。

「まあ、当時好きな人がいて積極的にアプローチしていたんで完全に間違いとは言えないんですけどね。誰彼構わずってことじゃないですよ。一応言わせてもらうと、布川先生にいろんな男と歩いていたと言われて肉食なんて言われたけど、それ全部同じ人ですから。彼のファッションの振り幅が大きくて、毎回信じられない程違っているから布川先生には違う人だと思われてしまったみたいですけど」

男をとっかえひっかえしていると誤解されたのは瑞紀のせいでもある。
布川先生は自分が女性をとっかえひっかえしていたから余計にそう思ったんだろうけど。

「うん、わかってる。一応ごめん」

「はい」と頷くと柴田さんがホッとした顔をした。

「で、その時アプローチしてた人とはどうなったの?」

おっと、そこ突っ込んで来ちゃうか。

「どうにもなりませんでした。頑張ってみたんですけどね」
苦笑していると
「じゃあ東京に帰って食事に誘っても?サッカーの練習の後みんなで食事に行くからよかったら佐脇さんも」
軽い感じで誘われて「いいですよ」と了承した。

リップサービスは断わらないのが大人の対応。

「でも、部外者が行ってもいいの?」

「いいんだ。食事会だけ参加って人も多いんだよ。彼女連れてくるヤツや、職場の同僚連れてくるヤツもいるし。メンバーはふたば台病院のスタッフより他の施設勤務者が多いけど、みんないいやつばかりだから楽しめると思うよ。そこにいる事務の宮原もメンバーだし」

へえっと頷くと「サッカーより食事会の方が参加者多いから気にしないで」と笑っている。
みんなでわいわいって大学生の頃を思い出すなあ。

そういえば、ここずっと瑞紀の店に日参してばかりいて他のことしてなかったかも。

「じゃあ誘ってください。勤務と被らなければ参加します」






そう言ってしまったのを後悔したのは食事会の会場だと連れて行かれたお店の前だった。
 
なんでよりにもよって瑞紀のお店かなーーーー





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