裏側の恋人たち
お開きの時間になり、元気な若者は二次会へと繰り出しその他の人たちは自由解散になる。
私はもちろん帰宅組だ。


「ひーびきさんっ」

会計を済ませて店の外に向かおうとしたところで声を掛けられた。

「あれ、クミちゃんじゃない。今日はバイトはお休み?こっちに飲みに来たの?」

『リンフレスカンテ』でバイトをしている女の子、クミちゃんだ。
先日瑞紀がグラスを割って怪我をしたときに手当てをしてくれたのはこの子だった。
クミちゃんはナースを目指している大学2年生でナースをしている私とは共通の話題があって親しく話をすることも多くとてもフレンドリーでかわいらしい子だ。

「やっぱりビールを飲むならこっちかなと思って」えへへと笑う。

瑞紀のお店の従業員は勤務先と違う店でも系列店であれば社割で飲食が出来るのでバイト暮らしの大学生はこうして積極的に系列店で食事をしている。

「そうよね、ここはビールの種類も多いし」
私もビールが目的ならここだと思う。

「響さんはもうお帰りですか?」
「うん、もう解散」
「だったらちょっと私に付き合ってくださいよ。今日一人飲みなんで人恋しいんです」

思わぬお誘いに心が揺れる。
更に「妹分を助けると思って」なんて言われてまあいいかと頷いてしまった。

同じく帰宅組の柴田さんに、知人に会ったからここに残ると告げてカウンター席のクミちゃんの隣に座った。

「スクリュードライバーをちょうだい」

さっきまで散々ビールを飲んでいたからカクテルにチェンジ。
なじみのバーテンさんにお願いしてくるりとクミちゃんの方を向いた。

「で、どうしたの。寂しくなるような何かがあったって?」

「え?ええ。えへへへへー」

クミちゃんの前にはクラフトビールのジョッキとタンシチュー、フライドポテトとタコのアヒージョのお皿が並んでいて寂しがっている子の夕食とは思えない。クミちゃんの引きつり笑いにああそうかと思う。

「何かあったんじゃないならいいけどね」

えへっと笑いビールをぐびぐびと流し込むクミちゃんに負けじとこちらもゴクリとスクリュードライバーを飲み込んだ。

大学の講義だけでなく病院の実習がきつくなってきたとクミちゃんはため息をついた。
「バイトに入る日もかなり減らしてもらったんです。でもきつくて」

「わかる。私もそんな時あった。何もかもうまくいかなくて。頑張っているのに実習の評価が低かったり、患者さんとコミュニケーションとれなかったり」

「ええ?響さんがですか?」

「そう-よおー。あの時はもう辞めたくなったもん。辞めなかったけど」

「そっかー、響さんでもそんな時があったんですね・・・。じゃあ私が落ち込んでも当たり前かぁ~」

クミちゃんは潤んだ目をごしごしっと擦ってまたお代わりのビールを飲み干した。

「私で除ければ愚痴も聞くし相談に乗るから頑張ってみて。ーーーでもちょっと飲み過ぎじゃない?大丈夫なの?そのジョッキ何杯目?」

「これはまだ3杯目ですから、全然大丈夫です!」

クミちゃんは大丈夫だと胸を張る。
確かにいつもの店の飲み会ではもっと飲んでいるとは思うけど・・・。






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