裏側の恋人たち
「響さぁん。ホントのとこ響さんとオーナーの関係ってどうなってんですか」

片手にジョッキ、反対側の手にもポテトが握られ既に酔っぱらいのクミちゃん。目が据わってきてるから。


週の半分を一緒に過ごして、彼の店の従業員のための忘年会や社員旅行まで一緒に行く私。いつものお店回りはともかくとして、忘年会も社員旅行ももちろんお宅のオーナーさんに誘われたから行っていたんだけど。

だからお店のスタッフたちは私と瑞紀が特別な関係だと思っている。
けれど、恋人にしては違和感があるのだろう。
私ですらどんな関係なのかわかっていないのだから他の人は尚更だと思う。


「瑞紀が何か迷惑かけてる?」

「このところオーナーは営業時間の店舗のラウンドをやってなくて、各店舗には営業時間外に行って帳簿のチェックをしているみたいです。それも度々オーナーじゃなくて事務所の人が来てるし、最近響さんの姿もみないからどうしたんだろうって他のお店でも噂になってますよ」

「そう」

「そうってそんな簡単に・・・。オーナーの様子がおかしいのって響さんのせいなんじゃないんですか?」

「やだ、私のせいじゃないわよ」

マリッジブルーなんじゃないのと言いたいけど、やめておく。

「だって響さん来なくなってからちょっとおかしいですもん」

「おかしいって何が?」

「このところ店にも事務所にもいない時間が多いみたいですよ。店長も事務所スタッフもオーナーと連絡取れない時があるって」

「へぇ」
確かにそれは珍しいかも。
裏原宿にカフェを新規オープンさせた時もあの忙しかった二ノ宮家のパーティーの前も瑞紀とスタッフ連絡が取れなかったことなどなかったんじゃないかな。

よほどあの彼女と結婚前の準備とかイチャイチャするのに忙しいのか。
ああ、やだやだ、イヤな想像しちゃった。

「私は毎日出勤するワケじゃないのでワカンナイですけど。うちの店長が店を開けるのも施錠も完全に自分の仕事になったからシフトに関係なく出勤しなくちゃいけなくなったーってぼやいてましたねー。とにかくみんなオーナーの姿をたまにしか見なくなっちゃったんでどこで何をされているんだか、私たちにはサッパリ」

いや、でもさ今までがちょっと楽をしすぎていたのよ、『リンフレスカンテ』の店長は。いくらオーナーの自宅が上にあるからって。

「まあお宅の店長さんには他の店舗の店長さんたち並みに働いてもらうしかないわよね」

「ですよねー。うちの店長、オーナーに甘えてるから。でも、甘やかしたのもオーナーなんですから責任持って欲しいですよ。犬猫拾ったら最後まで飼わないと。響さんもオーナーによく言い聞かせといてくださいよ」

いや、そんなこと知らんし。

「そんなことより、クミちゃんはこの先就職どうするの?どっち方面に進むか決めた?」

瑞紀の話はこれ以上勘弁とクミちゃんが悩んでいそうな方面に会話をスイッチ。

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