裏側の恋人たち
お互い無言になり、沈黙の時が流れる。
瑞紀の意図がわからない以上何か言うのは得策ではないと思う。
「くそっ」
この空気感に負けたのは瑞紀の方だった。
「もう一度確認するけど、全部の部屋を見たんだよな?」
見たと深く頷く。
見たからこそキッチンと書斎の寝袋の状態を知っているのだ。
「ウォークインクローゼットの奥も見た?なぜ家電家具がないかとか考えた?」
クローゼットの奥ってあの真っ暗な納戸のことだよね。
「扉は開けてみたよ。真っ暗だったから明かりは点けなかったけど。奥に金庫でも置いてありそうな雰囲気だったし窓もないみたいだったから施錠確認はいらないでしょ」
「じゃあ扉は開けたけど中は見ていない、と。ってことは寝室の壁面収納の扉も開けていないし、玄関収納の中も見ていないってことだな」
はぁっと瑞紀が肩を落とした。
え、なんかダメだった?当然だよね。
いくら何でも親しき仲にも礼儀ありって感覚だったんだけど。
「・・・・・・響ってそういうやつだったよ。ああ、うん、俺が甘かった」
瑞紀が頭を抱えて俯いてしまう。
何かやって欲しいことがあったのならきちんと言ってくれないと。
わたしは頼まれたことはしっかりやったと思うぞ。
「で、わたしに何を見てきて欲しかったの?」
ゆっくりと顔を上げた瑞紀の表情はちょっとだけ強ばっている。
「持ってくるように頼んだ水色の封筒はどこ?」
「しわにならないようにパソコンと一緒にケースに入れて持ってきたわよ。出す?」
「頼む」と言われてロッカーに置いたパソコンケースの中から封筒を取り出した。
はいどうぞと手渡したけれど、やっぱりまだ瑞紀の表情は強ばったまま。
「この中は見た?って言いたいとこだけど・・・・・・言われてないのに響が見るわけないか・・・」
そうそう。もちろん見ているはずはありません。
「じゃあさ、今ここで見て。なんの書類か広げて響の目で見て」
瑞紀に渡した封筒がわたしの手に戻ってきて、わけがわからないけれど言われたとおり封筒の中に入っていた書類を取り出して見た。
A3サイズのそれは『婚姻届』だった。
あの日見たあの『婚姻届』だ。
「なんでこんなものを私に見せるの」
自分の手と声が震え出しそうで必死に堪える。
いくらなんでもこれは酷いんじゃないだろうか。
最低なだけでなく最悪。
「響にはきちんと知って欲しいんだ。だからこれがどういう事情だったのか理解して欲しいし響の前でこれを破って捨てたいと思う」
「破って捨てる?」
「俺、アイツと結婚する気はないし、この保証人は故人だから無効なはずだし」
「どういうこと?」
どうやら自分が考えていたような単純な話ではないと気が付いた。
「うん、説明するからちゃんと座って」
「瑞紀は?瑞紀は寝た方が楽?それとも座った方がいい?」
ベッドから起き上がった状態の瑞紀はこのままでは身体が辛いだろう。
「ちゃんと話を聞くから楽な格好を教えて」
そう問いかけると「響と目線を同じ高さにしたい」という希望があって電動ベッドの背を立ててやった。
瑞紀の意図がわからない以上何か言うのは得策ではないと思う。
「くそっ」
この空気感に負けたのは瑞紀の方だった。
「もう一度確認するけど、全部の部屋を見たんだよな?」
見たと深く頷く。
見たからこそキッチンと書斎の寝袋の状態を知っているのだ。
「ウォークインクローゼットの奥も見た?なぜ家電家具がないかとか考えた?」
クローゼットの奥ってあの真っ暗な納戸のことだよね。
「扉は開けてみたよ。真っ暗だったから明かりは点けなかったけど。奥に金庫でも置いてありそうな雰囲気だったし窓もないみたいだったから施錠確認はいらないでしょ」
「じゃあ扉は開けたけど中は見ていない、と。ってことは寝室の壁面収納の扉も開けていないし、玄関収納の中も見ていないってことだな」
はぁっと瑞紀が肩を落とした。
え、なんかダメだった?当然だよね。
いくら何でも親しき仲にも礼儀ありって感覚だったんだけど。
「・・・・・・響ってそういうやつだったよ。ああ、うん、俺が甘かった」
瑞紀が頭を抱えて俯いてしまう。
何かやって欲しいことがあったのならきちんと言ってくれないと。
わたしは頼まれたことはしっかりやったと思うぞ。
「で、わたしに何を見てきて欲しかったの?」
ゆっくりと顔を上げた瑞紀の表情はちょっとだけ強ばっている。
「持ってくるように頼んだ水色の封筒はどこ?」
「しわにならないようにパソコンと一緒にケースに入れて持ってきたわよ。出す?」
「頼む」と言われてロッカーに置いたパソコンケースの中から封筒を取り出した。
はいどうぞと手渡したけれど、やっぱりまだ瑞紀の表情は強ばったまま。
「この中は見た?って言いたいとこだけど・・・・・・言われてないのに響が見るわけないか・・・」
そうそう。もちろん見ているはずはありません。
「じゃあさ、今ここで見て。なんの書類か広げて響の目で見て」
瑞紀に渡した封筒がわたしの手に戻ってきて、わけがわからないけれど言われたとおり封筒の中に入っていた書類を取り出して見た。
A3サイズのそれは『婚姻届』だった。
あの日見たあの『婚姻届』だ。
「なんでこんなものを私に見せるの」
自分の手と声が震え出しそうで必死に堪える。
いくらなんでもこれは酷いんじゃないだろうか。
最低なだけでなく最悪。
「響にはきちんと知って欲しいんだ。だからこれがどういう事情だったのか理解して欲しいし響の前でこれを破って捨てたいと思う」
「破って捨てる?」
「俺、アイツと結婚する気はないし、この保証人は故人だから無効なはずだし」
「どういうこと?」
どうやら自分が考えていたような単純な話ではないと気が付いた。
「うん、説明するからちゃんと座って」
「瑞紀は?瑞紀は寝た方が楽?それとも座った方がいい?」
ベッドから起き上がった状態の瑞紀はこのままでは身体が辛いだろう。
「ちゃんと話を聞くから楽な格好を教えて」
そう問いかけると「響と目線を同じ高さにしたい」という希望があって電動ベッドの背を立ててやった。