裏側の恋人たち
急用なのかと思いドアを開けると、
「ちょっと失礼します」とこちらが止める隙もなく曽根田さんが室内に入ってきた。

「え、ちょっと何」

曽根田さんは広くもない部屋の中をじろじろと見て洗面所の中まで確認すると
「福岡先生と一緒じゃなかったんですね」
と信じられないことを言った。

私が福岡先生を連れ込んでいると思ったのか。

「私が部屋に戻るときにはまだ福岡先生はあなたの隣にいたと思うんだけど」
言ってもムダだと思ったけれど、勝手な思い込みで部屋に押し入られたのだから嫌味の1つくらい言っても罰は当たらないと思う。

「でも、それからすぐに先生も疲れたから部屋に戻るって引き上げちゃったから、お二人で部屋で飲んでるんじゃないかと思ったんです」

そんなことあり得ないけど、仮にそうだとしても、だったら、なに。

「ーーー曽根田さん。あなたが福岡先生のことを好きでも私を巻き込むのはやめて欲しいの。職務上私と福岡先生が一緒にいる時間が長いのは避けようがない。そして福岡先生が好きなあなたはそれが気に入らないって言うのもわかる。でも、私は積極的に関わらないにしても同僚としてわざと福岡先生を避ける理由もない。
じゃあどうするかってことだけどーーーそれはあなたと福岡先生の間で解決してもらえないかしら」

迷惑なの。
口には出さなかったけど、伝わるだろう。
付き合うなら付き合う、振られるなら振られて欲しい。

「私と福岡先生は仕事上の付き合いしかしていないのだけど、納得してもらえない?公私混同されると疲れるの」

「そんな言い方ひどいです。私はただ・・・・・・」

曽根田さんは不満げに唇を噛みしめる。
ひどいのはどっちなんだか。
こんな時間に無実の罪でずかずかと部屋に踏み込まれたんだけど。

「福岡先生は部屋にいなかったの?」

この子のことだから先に福岡先生の部屋に行ったはずだと当たりをつけて聞いたみると、
「ノックしたんですけど、返事がなくて。人の気配もなかったので浜さんのお部屋かと・・・・・・」
って、やはり行っていたのか。

何だか修学旅行の引率の教師のような気分になってきた。

「そろそろいいかしら。わたし友達との電話の途中だったのよね」

「あ。あの、浜さんは明日の休日、福岡先生と何か約束をしているんですか」

「もちろん、してないわよ」

よかったと心の声が聞こえるように息を吐いた曽根田さんは
「もう一度福岡先生のお部屋に行ってみます」
と言って部屋を出て行った。

なんなの、もう。

福岡先生のためにお洒落している彼女が出て行き、室内に彼女の残り香を感じると言いようのない苛立ちを覚えた。

私は仕事をしに来たのであって、修学旅行に来た覚えも合コンツアーに来た覚えもない。もちろん婚活も。

スタッフの中にはチーム内で仲良くなっている人たちもいるようだけれど、トラブルを起こしているわけではないから何の問題もない。
むしろ、上層部は楽しく働けばいいと思っていそうだ。

でも、曽根田さんのはどうなのよ。

同時に福岡先生にも腹が立つ。
私を巻き込むなっつーの。

吉乃にお詫びのメールを送りながら、ああそうだとこちらの愚痴も含めておく。
こっちもひどいと。

吉乃に状況を説明し労いの言葉をもらったけれど、やっぱり腹が立つ。

< 93 / 136 >

この作品をシェア

pagetop