離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 天候も穏やかで大きな揺れもない。シートベルト着用ランプが消えるこの時間はトイレなどで席を立つお客さまも多い。事件が起きたのはそんなときだった。

 ドーンと大きな衝撃があって機体が激しく揺れた。お客さまもざわめき出す。

「やだ、怖い!」
「えぇ、天気もいいのに揺れすぎじゃない?」

 青ざめて震える方もいれば「飛行機なんてこんなもんだろ」と楽観視するお客さまもいる。私はすぐに通路に立ったままでいる乗客に声をかける。

「安全が確認できるまで着席して、シートベルトをお締めください」

 機体が猛スピードで降下しているような状況ならば席まで戻るのも危険だが幸いにもまだ揺れが激しいだけの状況だ。いざというときにマスクが使えるよう席に戻ったほうがいいと判断した。声をかけたお客さまは素直に席に戻ってくれた。
 だが、揺れはおさまることなく続いている。むしろ……激しくなっているように感じた。背中を嫌な汗が伝う。

(まさか……エンジントラブル?)

 私たちは一日に何便もの飛行機に乗り続けているのだ。これが天候不順による揺れなどではなく、なんらかの緊急事態であることはすぐにわかった。
 尋常ではない揺れ方に乗客の間にも不安が伝播していく。

「どうしよう。まさか落ちたりしないよね?」

 誰かの発したそのひと言で機内はパニックに陥りかける。

「え、やだ! 早くおろしてっ」
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