離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
「マスクは? なんでマスクが出てこないんだよ!」

 私たちCAが乗客を落ち着かせようと動き出したところに機長アナウンスが入った。

『お客さまにお伝えいたします。右のエンジンに異常が発生し、当機は現在ひとつのエンジンのみで飛行しております。札幌へは向かわず速やかに東京第一空港に戻り緊急着陸態勢に入ります』

 落ち着いた声で事実だけを正確に告げ、続いて乗客を安心させる言葉をかける。

『どうかご安心ください。飛行機は片方のエンジンでも走行可能なように設計されています。皆さまを安全に地上へとお届けすることをお約束します』

 桔平さんが自信たっぷりに語るので乗客たちは目に見えてホッとした顔を見せる。

「そうなんだ。ひとつでも平気なんだね」
「お、おぅ。パイロットが約束すると言い切ったんだしな」

 たしかに桔平さんの言葉に嘘はない。飛行機は片方のエンジンが故障しても走行自体は可能だ。だけど――。
 私はチラリと窓の外に目を走らせる。右翼のエンジンカバーがめくれ火が噴き出しているのが確認できた。

(――桔平さんっ)

 爪が食い込むほどの強さで両のこぶしを握り締める。

 決して安心できる状況ではない。片側のエンジンをなくし不安定な機体を安全に緊急着陸させるのは相当な技術と判断力が要求されるはずだ。万が一、着陸時に爆発でも起これば乗客やクルーの命が危ない。
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