離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
四章
 四章

 離陸した機体がぐんぐんと空へ向かっていく。真っ白な雲を突き抜けるその瞬間は何度経験しても最高にワクワクする。
 パイロットという職業の醍醐味はいろいろあるが、俺はコックピットから眺めることのできるこの景色が一番だと思っている。茜色に染まる夕焼け、激しい落雷、神秘的なオーロラ、壮大な自然の美しさは筆舌に尽くしがたい。フライトのたびに目の前に見たことのない光景が広がるのだ。こんなに楽しい仕事はほかにはないだろう。

 副操縦士の沖野が俺に声をかける。

「今日はよろしく」
「あぁ」

 ミュンヘン行きのこのフライトは俺が機長で、同期入社でもある彼が副操縦士だ。特別に親しいわけでないが一緒に厳しい訓練を積んできた仲間だ。おまけに今日はチーフCAを務める小林(こばやし)も同年入社だった。

(すごい偶然だが……技量がわかっている相手はやりやすいし、ありがたい)

 沖野が操縦担当のPFを希望したので俺はPMに回った。

「今日は天候も安定しているし大きなトラブルの心配はなさそうだ」
「そうだな。でもこういう日こそ気を引き締めて臨もう」

 ごく当然の返事をしたつもりだったが、彼はやや不機嫌な顔になった。

(気に障る言い方だっただろうか?)

 パイロットに出世競争はない。蹴落とし合うのではなく助け合ってともに成長していくことが求められる世界だからだ。だが、それはあくまでも理想であって現実はそう綺麗ではない部分もある。
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