恋する辺境伯
 どのあたりまで来たのかはわからないが、半時ほど経ってようやく馬車が止まった。

「上手くいきやしたぜ」
「そうか。ご苦労だった」
 男たちが誰かと話している。
 声を聞く限りでは初老の男性といったところか。

「お嬢さんが重くてまいりましたよ」
「……重いとは?」
「だから、体がゴツくて担ぐのが大変だったんですって!」
「待て! どういうことだ!」
 戸惑う声が聞こえたと同時に幌が乱暴に開けられた。

 木箱の陰からそっと顔を出して窺ったが、光が眩しくて首謀者の顔がよく見えない。
「一体誰を……っ! 何だこの山のような巨体は!」

「うるせえですわっ!!」
 ムシロが翻る。
「さっきから聞いていれば、ゴツいだの巨体だの、レディに失礼だろうがですの! 俺に喧嘩をお売りになるだなんておととい来やがれですのよ!」
 巨体がダイブし、荷台がガタンと大きく揺れた。

 いやいや、何ですかその口調は。

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