恋する辺境伯
 呆れ顔で眺めていたら、ライラ様がマリエル様のコートの袖をクイッと引っ張った。
 マリエル様が巨体を傾けるとライラ様がその耳元で何かを囁き、ふたりで顔を見合わせて微笑みあっている。
 そしてふたりで雪だるまをもう1体完成させると、こちらに視線を向けた。
「カーク! 見ろ、おまえの雪だるまも作ってやったぞ!」
 マリエル様がこちらに向かって手を振り、ライラ様はふんすと胸を張って得意げに笑っている。

 我が主の作った雪だるまの悪人面に呆れていただけなのだが、その様子がつまらなさそうにしているように見えただろうか。
 申し訳なさと、ライラ様の気遣いへの感謝を込めて笑顔で軽く会釈をする。
 その時だった。
「くしゅんっ」
 と小さいくしゃみが聞こえた。

 寒さに慣れていないライラ様だ。
 体が冷えてしまったのかもしれない。
「いつでも湯浴みできるよう用意しておりますので――」
 そろそろ中にと言い終える前に、マリエル様がなんとライラ様を横抱きにして駆け出した。
「大変だ! ライラが風邪をひいてしまうっ!!」

 一目散に屋敷に入っていく我が主の大きな背中を見送る。
 ゆっくりと後を追ってちょうどバスルームの前に到着したところで、中から悲鳴に近いライラ様の声が響いた。
「マリエル! どうしましょう、誰かっ!」

 様子を覗いたメイドからの「大丈夫です」という了承を得て中へ入る。
「失礼します」
 このバスルームはマリエル様の巨体が収まるよう特注で作らせた大きなバスタブが備わっているのだが、そのバスタブに半分沈むようにしてマリエル様が倒れていた。
 ふたりともまだコートを着たままの状態だ。
 
「あの……コートを脱がせてくれようとしたので『一緒に入浴するのですか?』と聞いたら、ふらふらと倒れられてしまって……」
 言われてようやく、自分が何をしようとしていたのか気づいたのだろう。
「大丈夫ですよ。お湯かげんがちょうどよくて眠ってしまわれたのでしょう」
 にっこり微笑むと、ライラ様は何かを思い出したようにポンと手を合わせた。

「わたくし知ってますわ! お湯が気持ち良くて眠ってしまうカピバラという動物がいるんですのよ! やっぱり可愛らしいお方だわ」

 笑い転げそうになるのをどうにか耐えて、メイドに来客用のバスルームに案内するよう指示を出しライラ様を送り出した。
 こういう事態もあり得ると想定して来客用のバスルームのほうも湯浴みの用意をすでに整えていて正解だった。
 ライラ様の「カピバラ」発言は想定外だったが。
 
「隊長が風呂で溺れているから助けて運んでくれ」
 
 駆けつけた4人の隊員たちは
「隊長って泳げないんだっけか?」
「いや、秋に激流の川で熊とサケの取り合いしてたぞ」
「てことはライラ様に沈められたのか」
「すげーな、天使様は熊よりもボス猿よりも強いんだな」
と口々に言いながらマリエル様を運んで行ったのだった。


 【完】
 
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