偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました
ーーそれはどういう意味? どう捉えたらいいの?
恋の胸の内で疑問と戸惑い、ずっと燻っていた期待感とが綯い交ぜとなってどんどん膨張していく。
「……え?」
恋の複雑な心情が、裏返ってしまった声音にも如実に表れていた。
そんな恋に秀は、恋人にでも向けるような、やけに熱のこもった眼差しを向けてくる。
ーー嫌だ、そんな風に見ないで! そんな風に切実に、熱っぽく見つめられたら何も言えなくなってしまうでしょう。
恋の心の声は秀に届くことはかった。
秀の切れ長の双眸と、初めて夜を共にしたあのとき目にした、雄を彷彿とさせる色香を纏った妖艶な相貌とに、魅入られてしまった恋は、身動きも、瞬きでさえも叶わない。
今にも吸い込まれてしまいそう。そんな錯覚に陥ってしまいそうだ。
そこに、手にしていたバッグが床へと落下するドサリという無粋な音がやけに大きく響き渡った。
その音で、我に戻ることができたのだが、その音が部屋の静けさに吸い込まれる寸前。
「俺のことを知りたいんだろ。だったら帰るな。俺たち、婚約者だろ。もうすぐ結婚するんだろ」
言葉は相変わらず俺様仕様の命令口調だが、切なく聞こえてしまうのはなぜだろう。
おそらくそれは、言葉の裏に何かが秘められているんじゃないかという、身勝手な期待感がそうさせているに違いない。
そう思うと、偽りの婚約者を演じる上で、互いのことを知る必要はあっても、本物の婚約者のように一緒に過ごす必要などないのではーーという言葉を再度口にすることはできなかった。