【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜
「ようこそお越しくださいました」


 屋敷の入口に着くと、ブラントが笑顔で出迎えてくれた。
 彼の後ろには使用人たちがずらりと並び、恭しく頭を垂れる。

 結婚は家と家との結びつき。本気で結婚するならば、両親との顔合わせは必須だろう。
 けれど、互いに解消する気ならば、今すぐに会う必要もない。


 ブラントの両親は彼の説得を受け、今日ここには来ていない。
 一人息子の結婚を心待ちにしているという二人には申し訳ないが、ラルカとしてはありがたい限りだ。
 『いずれ、二人で領地に遊びに来てほしい』と言われたと、ブラントが困ったように話していた。


 ラルカの父親も、今日この場には来ていない。そもそも、ラルカの父親は娘の結婚を急いでいないからだ。
 全てはメイシュの独断専行。とはいえ、逆らえるものはラプルペ家のどこにも居ないのだが――――。


「この度は素晴らしいご縁をいただき、心から嬉しく思っております」


 メイシュが微笑む。優雅に見える表情のその裏で、彼女はブラントやソルディレン家の使用人たちを密かに品定めしている。
 ブラントはそうとわかっていながら、至極穏やかに微笑んだ。


「こちらこそ、ラルカと婚約ができてとても嬉しいです。彼女は国一番の美人ですし、侍女としても、とても優秀だと評判ですから」

「え……? っと、ブラント様?」


 事前打ち合わせの際に、そんなセリフは予定していない。ラルカとしては、姉の好きなように塗りたくられてばかりの自分の顔があまり好きになれず、容姿を褒められると戸惑ってしまう。
 頬を染めたラルカに、ブラントは「事実だよ」と優しく囁く。


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