ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜



 ────夜が明ける。

 夢とうつつの狭間で、苦しげな呼吸を聞いた至は目を開けて身体を起こす。

 ソファーで横になっている小春が、浅い呼吸を繰り返して汗ばんでいるのを見た。

「小春ちゃん?」

 歩み寄ってみると、肩のあたりに赤黒い染みが広がっていた。

 ちょっとごめんね、と断ってから、制服の上に羽織っていたカーディガンをめくると、まだ滲み出ている気配があった。

 色が鮮やかに赤くて、出血は止まっていないようだ。

「何で無理すんの……。痛いなら痛いって言ってよー」

 至は眉を下げつつ、小春の頬や額に張りついた髪を流してやる。

 指先が触れて気がついた。かなり熱い。

「病院も薬局もまだ開いてないもんな……。もうちょっとだけ我慢してね」

 そう言ったとき、ふいに扉が叩かれた。

「あの、すみません」

 聞き慣れない声に、警戒心が宿る。

「こちらに怪我人がいらっしゃいますよね? よかったら、わたしが治します……!」

 どうして分かったのだろう、なんて野暮(やぼ)な疑問はすぐさま霧消(むしょう)する。

 手当てする、ではなく、治す、と言った時点で彼女も魔術師なのだろうと想像がついた。

「きみは?」

「あ、三葉日菜と申します。実はわたし、不思議な力を持っていて、瞬時に怪我を治せるのです。信じられないかもしれませんが……」

 そっと立ち上がった至は、ギィ、と扉を開ける。

「いや、信じるよ。俺たちも魔術師だから。……彼女のこと、お願いしていいかな」



 ────時刻は16時を回った。

 日菜のお陰で怪我は治癒(ちゆ)したものの、熱が下がらず、至はつきっきりで看病していた。

 太陽が傾き、暖色の柔らかい光が漂う。
 カラスの声を耳に、ふっと小春は目を開けた。

「あ、起きた?」

 そう声をかけると、彼女はどこか慌てたように身を起こす。

「よかった……」

 授業が終わってすぐに飛んできた日菜も、ほっと息をついた。

「この子は三葉日菜ちゃん。回復魔法の魔術師。きみの怪我を治してくれたんだよ」

 彼女は小春にぺこりと会釈してみせる。

「もー、小春ちゃんさぁ、強がっちゃだめじゃん。大丈夫じゃないときは、ちゃんと“大丈夫じゃない”って言わなきゃ」

 冗談めかして笑いかけたものの、小春は心底困惑したように至と日菜を見比べていた。

「あの、あなたは……?」

 不安気な面持ちで見上げられ、思わず苦笑する。

「やだな、昨日のこと覚えてないの?」

「え、と……。わ、わたしはいったい……」

 昨日のことどころか、自分のことも彼らのことも、どうしてここにいるのかさえ忘れ去っていた。

 至は困ったように頭をかく。

「んー……参ったな。眠るたびにリセットされちゃうのかな?」

 至は改めて、小春のことや自身のこと、それからゲームに関して丁寧に説明する。

 ────そんなことを、毎日繰り返した。
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