ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

 小春は小さく笑った。

「忘れても蓮が教えてくれるんでしょ」

 思いがけず驚くも、頷いた蓮は笑い返す。
 本当に彼女が戻ってきたことを深く実感する。

「おう、何百回でも教えてやるよ。忘れてたことを忘れるくらいな」

 小春はさらに笑う。
 彼がいてくれてよかった。

 ────けれど、実際問題どうしたものだろう。
 この状態ではとても家には帰れない。

 至もいなくなってしまった上、冬真たちにも場所が割れてしまい、あの廃屋に戻ることもできない。
 どこを生活の拠点にしたらいいのだろう。

 そのとき、小春のスマホが鳴った。
 紅からの着信だった。

「もしもし、紅ちゃん?」

『ああ、突然すまないな。水無瀬氏、きみは記憶喪失なのだとか』

 紅は相変わらずの古風な語り口で切り出す。

「あ、うん……。そうなの」

『色々と困りごとがあるのではないか? たとえば、住む場所とか』

「それは────」

『わたしは学校近くのマンションでひとり暮らししている。特別なもてなしはできないが、もし困っているなら来ても構わないぞ』

 驚いたり感謝したりする隙もなく、一方的に切られてしまった。
 間を置かずして住所が送られてくる。

【心配するな、寝巻きなら貸すぞ】

 小春は蓮と顔を見合わせた。

 思わぬ申し出だったけれど、この上なくありがたいものだ。
 遠慮なく彼女の厚意に甘えさせてもらうことにした。

 ────日用品だけコンビニで調達したところ、今度は蓮の方に紅からメッセージが届いた。

【向井氏に貸せる分はないから、きみは自分のを持ってきてくれ】

 蓮は驚いたように瞬く。

「え? 俺もいいのかよ」

 呟きながらそう送った。

【当然だ。水無瀬氏のそばにいると言ったのだろ?】

【記憶を失ったら自分がすべて教えてやる、と。独りにしない、と】

【向井氏がそう息巻いた記憶を確かに()()が】

 立て続けに送られてきた。
 “見た”というのは、大雅から転送された記憶のことだろう。

 蓮は思わず口元を手で覆った。

(バレてんのかよ、恥ず……。まあ、ほぼ全員の前で宣言したんだから変わんねぇか)

 記憶を転送されていようがいまいが、あれは仲間たちに見聞きされている。

【分かったよ、ありがとな】



 一旦、荷物を取りに自宅へ戻ると門前で足を止める。

「寒いだろ? 中で待ってろよ」

「いいよ、家の人に悪いからここで」

 ドアに手をかけて促したものの、彼女は首を左右に振った。

「分かった。すぐ戻るから」

 ────宣言通り一瞬で支度を済ませて外へ飛び出した蓮は、目を疑った。
 待っていたはずの小春の姿がない。

 慌てて道路に出ると、ぽつんと佇む人影が目に入る。

「小春……」
< 228 / 286 >

この作品をシェア

pagetop