ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

第8話 11月13日


 放課後、小春たちは病院へ赴き、緊急搬送された陽斗を見舞った。

 医師によれば、発見されたのは路上だったが、溺水状態だったそうだ。

 現在も意識は回復していない。

「魔術師の仕業だよな」

「……でしょうね。路上で溺水なんてありえない」

 確かめるような蓮の言葉に琴音は頷く。

 この場にいる全員が同意見だった。

「溺れたってことは、前に陽斗くんが言ってた人が怪しいかな? 早坂瑚太郎くん」

 小春は真面目な声色で言った。

 水魔法のコピー元であるという彼が、自ずと犯人候補の筆頭となるだろう。

「そうだろうな。単独かどうかは分からないが」

 慧が頷くと、奏汰は首を傾げて尋ねる。

「それって、早坂が如月冬真たちとも関係あるかもってこと?」

「その可能性も当然ある」

「関係ないとしたら、あっちからもこっちからも狙われて大変だな」

「……他人事じゃないよ、蓮」

 肩を竦めた蓮に奏汰は苦い表情を浮かべた。

 慧も謹厳な面持ちでメガネを押し上げる。

「如月の手先だとしたら、桐生は何故言わなかったんだ? ……もしや、桐生はまだ如月と切れてないんじゃないか」

 二重スパイを疑った慧だったが、蓮は反論した。

「いや、それにしては喋り過ぎだろ」

 端的かつ妥当な言葉だった。

 大雅は自身や冬真、律の魔法の全容だけでなく、冬真の目的まで包み隠さず打ち明けていた。

 もともと冬真への忠心もないに等しかったのだ。

 そんな彼が冬真に肩入れするとは考えにくい。

「早坂が如月の手先と決まったわけじゃないしね」

「瑚太郎くんは、まったく関係のない、第三者の魔術師かもしれない」

 琴音に小春が続いた。

 陽斗が襲撃されたのがこのタイミングだったから、結び付けてしまうだけかもしれない。

 小春は顳顬に人差し指を当てた。

「大雅くん。ちょっと聞いてもいい?」

 全員に共有しておきたい情報だったため、小春は声に出しながら呼びかけた。

 程なくして大雅から返答があった。

『どうした?』

「早坂瑚太郎くんって知ってる? 陽斗くんを襲ったかもしれない魔術師なんだけど、もしかしたら、冬真くんの仲間なのかなって」

『いや……俺の知る限り、そんな奴はいねぇな。ただ────』

 頭の中に響いていた声が一旦途切れた。小春は黙って続きを待つ。

『ちょうどいいから、昨日言った“もう一人”……そいつについて説明しとく。全員聞けよ』

 大雅は小春と一対一でのやり取りから、全員にテレパシーを送るように切り替えた。

 ここにいる面々と、この場にいないアリスにも大雅の声が届く。

『そいつの名前は“ヨル”。当然それは通称だけど、本名も魔法も分かんねぇんだ』

 それを聞いた全員の顔に戸惑いの色が浮かんだ。

 蓮が真っ先に疑問をぶつける。

「何で? 目合わせれば読み取れるんじゃなかったか?」

『ああ、でもそいつに関してはテレパシーを使っても何も分かんなかった(、、、、、、、、、)

 ますます意味が分からない。

 各々が思わず視線を交わす。

『普通の人や魔術師は、目を合わせたときに見える頭の中が明るいんだ。でも、ヨルの頭の中は真っ暗で何も見えなかった。マジで、それこそ真夜中みたいに』
< 73 / 338 >

この作品をシェア

pagetop