ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

第9話 11月14日


「う……」

 琴音は小さく(うめ)き、うっすらと目を開ける。

 (しら)み始めた空の薄明るい色合い。
 見慣れない光景が視界に飛び込んできて、困惑しながら身を起こした。

 周囲には仲間たちの姿があった。小春や蓮、アリスは眠っている。

「気がついた? 大丈夫?」

「ええ……。もう平気」

 奏汰に答えると、昨晩の記憶が徐々に蘇ってきた。

 操られた大雅の策略に(はま)り、瑠奈に襲われたところに小春が現れて────どうなったのだろう。

「水無瀬さんは大丈夫なの? 桐生たちは……」

「大丈夫、小春ちゃんはきみを連れて逃げてきてくれた。桐生くんたちはそこで拘束してるよ。望月くんの異能で気絶してる」

 指し示された方を見やれば、大雅と瑠奈の姿があった。

 確かに気を失っているらしく、動く気配はない。
 それぞれネクタイやリボンで手首をまとめ上げられていた。

「そう……。わたしのせいでごめんなさい」

「謝る必要ないよ、仲間なんだから。それより、お礼なら小春ちゃんに言ってね」

 あのとき彼女が来てくれなければ、今頃は冷たい石と化していたにちがいない。

「ええ、そうするわ。……ところで望月は?」

「ここだ」

 その声に振り返ると、慧がビニール袋片手に歩いてくるところだった。

 奏汰が「おかえり」と声をかける。コンビニへ行っていたらしい。

「もう平気か?」

「平気よ。ありがとう」

 慧に差し出されたあたたかいココアを受け取る。彼は、奏汰にはカフェオレを渡していた。

 ほどなくして完全な夜明けを迎え、朝日が降り注ぐ。
 大雅と瑠奈を除いた全員が目覚めると、琴音は小春に向き直った。

「────助けてくれてありがとう、小春」

 はっとした。初めて彼女に名前で呼ばれた。

 小さく微笑んだ琴音の眼差しは柔らかく、嬉しくなった小春は顔を綻ばせた。

「ううん、無事でよかった」

 それから目を閉じている瑠奈に視線をやった彼女は、一転して厳しい表情を浮かべる。

「瑠奈を飛ばすわ。どこか遠くへ」

 戻ってこられないくらいの僻地(へきち)や危険地帯へ飛ばしてしまえば、もう脅威でもなくなる。

「待て、やめておけ」

 意外なことに慧が制止した。

「どうして?」

「“手下”がいなくなれば、今度は如月本人が出てくるかもしれない」

 そうなれば、操られるのは大雅だけでは済まないだろう。

 最悪の場合、ここにいる全員が否応(いやおう)なく琴音の命を狙う羽目になるかもしれない。
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