もうごめん、なんて言わないで
だけど、それにしても寒い。
正直ずっと我慢していたけれど限界を感じていた。
外にいたときはちょうど良かったのに、館内に入ったらあまりにも冷房がききすぎていて随分前から凍えている。
上半身はほぼシースルー。少し前から上着をはおり出した杏奈を見て、私も持ってくればよかったと後悔しているところだ。
心なしかだんだんとお腹も痛くなってきた気がした。
みんなが楽しそうなのに、ひとりで部屋に戻るのも気が引ける。
私が帰ると言ったら心配して杏奈もついてくると言いかねなくて、空気を壊さないよう我慢した。
なんとかお酒の力で体を温めようとカクテルに口をつけるけれど、どんどん冷えていく一方だった。
「なんだコマ負けてんじゃん。俺もやろっかな」
すると体がふわっと温かい空気に包まれた。
「それ邪魔だから持っててもらっていい?」
驚いて顔を上げたら真横には俊介が立っていた。こちらを見もせず、ルーレットにチップを賭けて椅子に浅く寄りかかる。
気づけば彼の着ていたジャケットが肩からかかっていた。
久しぶりに交わした会話が一瞬にして体を熱くした。
近くにいたアメリカ人とフランクにやり取りをする彼を横目に、隣にいると妙な緊張感があった。
ふんわりと香水の香りがして鼓動が一気に速まった。