溺愛執事と極上生活
何もわからぬまま高級車に乗せられ、びっくりする程大きな屋敷の前に止まる。

「大きな屋敷ですね……」

「そうですね。
しかし、今日からは風葉様のご自宅になりますよ!」

「あ、いや…」


運転席から出た美間は、後部座席のドアを開け手を差し出した。
「どうぞ?」

(え?この手を取れってことだよね?
てか、車くらい自分で降りられるんだけどー?)

風葉が迷っていると、美間が手を伸ばし風葉の手を取った。
そして、ゆっくり外へ誘導するように引いた。

「風葉様。
戸惑われるのは、重々承知です。
しかし、貴女様はここのご令嬢です。
そして我々は、使用人。
我々使用人に、気を遣う必要はありませんからね。
少しずつで構いません。
我々との生活に、慣れてください」


屋敷の中は、風葉の想像を越える空間が広がっていた。
「なんか、漫画の世界みたいですね…凄い……」

ゆっくり美間の後をついて行きながら、感心したように呟く。

「そうですね(笑)
芥田神家は、旧家でしかもこの国一番の資産家ですから」

「そう…ですよね」



そして一際大きな扉を入ると、奥のソファに座っている威厳のある男がいた。
後ろには、二人の執事が控えていた。

芥田神家の当主・芥田神 喜一郎(きいちろう)

タレ目の優しそうな雰囲気を持つ、喜一郎。
しかし、なぜか恐ろしい。

さすが、芥田神一族の当主といったところだ。

「そこ、座りなさい」
「は、はい」
向かいのソファに腰かけると、美間がその後ろについた。

(この人、一度見たことがある………
……………うーん…何処でだろう)

「風葉」
「え?は、はい!」

「お前の父親が亡くなった時以来だな」

「え?あ……」
(そうだ!お父さんのお葬式の時だ!)

「…………似てるな、あいつに…」
「えぇ、ほんとに……
お若い時にそっくりです」
喜一郎が、後ろに控えていた執事に言うと、二人で微笑ましそうに風葉を見た。

「あの…」
「あぁ、すまない。
…………風葉。お前、母親に良く似てるな」

「あ…よく言われます」
「だろうな」

「あの、私…」
「ん?
今日からここが、お前の家だ。
俺の事も、じぃじと呼べ。
こいつ等の事も、好きにつかえ!」

「あの!そうではなく!」
「なんだ?」

「お母さん……あ、いや。
母は、父と駆け落ちしたんですよね?
もう母とは関係ないのでは?
私の事も、ほっておけば………」

「………………半年前だったか」

「え?」

葉月(はづき)(風葉の母親)が、俺を訪ねてきた━━━━━━━」
喜一郎は、ゆっくり話し始めた。
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