溺愛執事と極上生活
喜一郎の話では、風葉の父親が亡くなった時、葉月には戻ってくるように伝えたらしい。

しかし葉月は喜一郎を裏切り出ていった身なのに、戻るのは芥田神の名前を汚すと言って拒んだのだ。


そんな葉月が、半年前に訪ねてきて言った。

『お父様。
今更、こんなことお願いするのは失礼だとわかってます。
でも、私がいなくなったら風葉は一人になる』



「━━━━━だから私が死んだら、風葉を芥田神家に戻してあげてほしい。
……………ってな。
葉月は自分の病気がわかって、俺のところに謝罪と申し入れに来た。
俺は、最初から葉月と風葉だけは受け入れる気だったから了承した。
俺は今でも、風葉の父親が葉月を奪ったと思ってるからな」

「そう…ですか……」

「俺にとって、風葉“だけ”だ」

「え?」

「俺も、一人だからな」

「あ…」
(確か、身内は全員亡くなってるんだよな…
去年、弟が亡くなったって言ってた。
テレビで見たことがある)

「今からでも、家族になれるだろ?」

「家族…」

「あぁ。俺達は家族だ」

風葉の瞳が潤む。
「風葉?」

急に、安心感が生まれたのだ。
母親を亡くした悲しみと、これからの不安。
それらに、埋もれそうだったから。

「風葉様、こちらを…」
美間がハンカチを手渡す。

「あ…ありがとうございます……」
それを取り、目元に当てる。

「風葉様。今日から、よろしくお願い致します……!」



それから、風葉の部屋に案内された。
「す、す、凄い…」
(ウチのアパートよりも広い…)

「葉月様のお葬式や手続き、アパート内の荷物等……全て、私共が行います。
風葉様は、何も心配されることはありませんからね!」

「いえ!そんなわけには……」
「言いましたよね?
貴女様は、ここ…芥田神家のご令嬢だと。
我々に、遠慮する必要ありません。
今日はもう遅いです。
お休みになられてください」

美間が微笑み言う。
しかしその笑顔の中には、言葉にできない“絶対的”な何かがあった。

「はい、わかりました」

明朝、喜一郎と二人で朝食をとり、葉月の話をした。
とてもおてんばで、令嬢とは程遠い女性だったと。
でもとても優しく穏やかで、清らかな女性だったと、喜一郎は懐かしむように話していた。
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