こじれた俺の愛し方
 キスも、俺から手を繋ぐこともしたことがない。
 ナツとはまだそんな仲。

 しかし気持ちの昂ぶる今の俺には映画の曲など聞こえていないため、もう眠さは消し飛んでしまっている。

 今しかない。

 抱き寄せたナツの頬にそっと手を添える。
 このままもっとナツを抱き寄せて…

 しかし、ナツの目がゆっくりと開いた。

「…ん…」

「!!」

 俺はいま、座席から降ろしたナツをしゃがみ込んで横抱きにしている。

 さすがに慌てる俺だったが、ナツは気にする様子もなくぼんやり。

 ナツにはこれが不自然な状況だというのが分からないのだろうか?

 それでも寝姿を見られたうえ抱きしめられていたのは恥ずかしかったらしく、ナツははにかんだまま俺に謝罪する。

「…ごめんなさい…テイキさんに寄っかかっちゃいました…?それに、寝顔まで…私、途中で眠ってしまって…。テイキさん、お疲れだと思ったからリラックスしてもらおうと思って誘ったのに…」

 俺はこの状況にも理由にも呆然としていたが急いで気を取り直し、

「…そうだったのか。…イスから落ちそうだった、体が痛くなければいい」

 思わずそうごまかしてしまった。

 これが以前だったなら、今頃俺はナツを…

「ありがとうございます…!もう映画、終わっちゃいますね…。私、重かったでしょう…?ごめんなさい…」

 ナツは顔を赤くしたままゆっくりと俺の手を離れ、座席に座り直して姿勢を正した。

 ナツは軽かった。
 やや長身の俺よりずっと小さくて、軽くて細くて、そして柔らかだった。
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