二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 それから数分後。
 ルームサービスで運ばれてきたのは、ピンク色のガラスの靴だった。

「何ですか……これは……」

 香澄は、異世界ものの恋愛漫画やゲームに出てきそうなアイテムに目を奪われた。

「あなたのピンク色のワンピースに合いそうなカクテルを、準備させていただきました」

 現在ランドリーのお世話になっているワンピースのことだろう。
 通販で見つけた、Vネックのロングワンピースで、まるでワンピース全体が薔薇の花びらのようにひらひらしていている。
 実際はモデルさんが着ているからこそ、そのひらひらがとても華やかに映るのだと、実際に着てみて体感した。
 男性は、それらを運んできたベルボーイに対して

「やってくれ」

 と指示を出していた。
 ベルボーイは、男性に対して一礼すると、ガラスの靴に目を奪われている香澄に近寄り

「失礼します、お嬢様」

(お、お嬢様!?)

 シナリオで書き慣れているはずのセリフをベルボーイに言われて、香澄は腰を抜かしそうになる程驚いた。
 ふかふかソファの上に座っていなければ、地べたに腰から崩れ落ちていたかもしれない。

「今からこのグラスにお嬢様のためだけの魔法をかけさせていただきます」
「魔法……ですか……?」

 香澄はちらと男性を見る。
 男性は、香澄に微笑みかけながら、ベルボーイの方に視線を戻すように香澄に促した。
 ベルボーイは、グラスにシュワっ音をたてながら、透明な液体を注いでいく。
 明かりに照らされて、まるでダイヤのようにグラスの中が煌めいている。

「まだ、ここには炭酸水しか入っておりません」
「は、はい……」
「そこに、これから魔法のお薬を入れさせていただきます」

ベルボーイは、ガラスの靴の形をした瓶の蓋を外す。

「このグラスに、お好きな分の魔法を入れさせていただきます。そうすれば、今宵だけの特別な魔法のドリンクが完成します」
「お好きな分?」
「はい。お薬が十分だと思ったら、ストップとおっしゃってください」

 香澄は戸惑った。
 魔法の薬と例えた、ガラスの瓶の中の液体がお酒なのは薄々分かっていた。
 けれど、それがどんな味なのか、どれだけ強いのかの情報は一切わからない。
 だから、どれくらい入れるのが十分なのか、香澄にはピンと来なかった。

「それでは、始めても?」

 ベルボーイは香澄に尋ねる。
 はい、と答えるべきなのは分かっていたが、香澄は首を振った。

「すみません、どれくらいが適量なのか、私分からなくて……」

 香澄は、素直に聞くことにした。

「では……」

 ベルボーイではなく、男性が香澄に尋ねた。

「お嬢様は、どんな魔法にかかりたいですか?」
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