二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「魔法……ですか……?」
「そうです」

 男性の、色っぽい声で囁かれたからなのか。
 その男性の、香澄を見つめる目が、大切な宝物を見るような愛おしげな目だったからなのか。
 それとも、チョコレートドームのとろけるような甘さが無駄にエネルギーを生み出したのか。
 もしくは、今日がクリスマスイブと言う特別な日だからなのか。
 ……正確なことは、香澄には分からない。
 けれども、魔法という言葉が香澄を普段縛っている縄を、するりと解いていく。
 きっと、普段の香澄だったら、こんなことは言わなかったかもしれない。
 でも、スイートルームで、宝石箱のようなデザートを、ゲームの登場人物や芸能人のようなイケメンと一緒に食べると言う、人生に1回あるかないかのシチュエーションに、今香澄はいる。
 恋愛ゲームならば課金攻略コースレベルのゴージャスな体験を、お酒ぶっかけられたと言う対価だけで得られている。
 それだけでも、十分すぎる程の魔法だろう。
 でも、男性はさらなる魔法をかけてくれると、香澄に宣言している。それも、香澄が望む魔法を。
 香澄は、もう1度ベルボーイが持つガラスの靴に目線をやる。ピンク色が艶めいている。

(シンデレラは、ガラスの靴で王子様と恋に落ちた……)

 ふと、そんなことを思い出した香澄は、ボソリと呟いてしまった。

「恋愛できる魔法にかかりたい」

 それは、香澄にとっては切実な問題。
 クリティカルにそれを解決できないから、自分ではなく、他人の恋愛を客観的に観察し、その行動や言葉を自分の糧にするために、カップルが大量にいるであろう空間に乗り込むという作戦を選んだくらいだ。
 けれど、香澄だって分かっている。
 自分が恋愛をするのと、他人の恋愛を見るだけだと天と地ほどの差があることくらいは。
 ……そんな無意識の焦りが、言葉となり香澄の声で具現化されてしまった。

(しまった……!)

 目を丸くした男性の表情を見て、自分がどれだけ変な発言をしたかを気付かされた香澄は

「すみません、忘れてください。魔法なんて、今のままで十分ですから」

 と、早口で言いながらベルボーイに「他の皆さんと同じくらいの量でいいです」と言おうとした……その時、男性が動いた。

「恋愛できる魔法、素敵ですね、僕もかかりたい」
「え」

 男性はそう呟くや否や

「そのリキュールは、グラスの三分の一まで注いでくれ。後は……」

 と言いながら、男性は皿の上に残っていた苺を1粒手に取り、香澄用のグラスの中に入れた。
 薄ピンク色のドレスに真っ赤なハート型ルビーのネックレスを表す……香澄が見たことがない予想外すぎる可愛いカクテルが完成した。
 香澄の心臓が、1回、大きく跳ねた。
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