二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 その声は香澄に

「かわいい」
「ここ、濡れてるよ」

 と散々可愛がってくれたあの人と、全く同じ声だった。
 革靴の音が近づいてくる。
 香澄の側を、その革靴の音が通った瞬間だった。

(この香り……!)

 それも、確実に知っている香りだった。
 香水だけでもだめ。
 服の洗剤だけでもだめ。
 その人の持つ特有の匂いと混じり合わなくては、あの香りは出ないということを、香澄はもう知ってしまっていた。

(ま、まさか……?)

 香澄は怖くなった。顔をあげるのが。
 でも、あげたいとも思った。
 確かめたいと思った。
 でも確かめたくなかった。
 もしも、万が一あの日の人だったら……?
 そんな風に、香澄の脳が思考でぐちゃぐちゃになりかけたその時だった。

「今回、小森様の案件を担当させていただきます、せりざわりょうと、申します」

 その声に、香澄は引き付けられるように顔を上げてしまった。
 そして、分かってしまった。
 目の前の人は、髪型こそワックスで前髪を上げていて、メガネをかけてはいたものの、間違いなくあのクリスマスの日に香澄を抱いてくれたリョウだった。
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