二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
(私だって、気づいてないよね……)
香澄は、淡々と自分の母親が語る情けない話を黙って聞いている芹沢涼の表情から、彼の考えを読み取る努力をした。
しかし、徹底された芹沢涼のポーカーフェイスっぷりのせいもあり、なかなか香澄は思うように彼の考えを掴むことができそうに無かった。
まるで自分でオペラを演じているのか、とつっこみたくなるほど、オーバーリアクションでいかに自分が不幸かを大げさに説明する母親と対比をするのも辛かった。
(私は、結局こっち側の人間だと思われてるんだろうな……)
香澄は、訳もなく涙が出てきそうになったのと、ムカムカがまた始まったのもあり、急いでハンカチを掴み口元を抑え、もらったお茶を飲み干すという行動を繰り返すことで気を紛らわせることだけに集中した。
(早く、この地獄のような時間が終わって欲しい)
クリスマスの日の香澄は、付け焼き刃とは言え、確かに香澄史上オシャレは頑張った日だった。
だから、見られる容姿には少しは近づけていた。
だが今は違う。
あの日から体重も減っている。
頬もしっかりこけている。
隈もくっきりできている。
大学生が着るリクルートスーツすら、ぶかぶかでしっくりこない。
いつ襲ってくる吐き気に怯えているから、化粧すらもうまともにはできない。
それが、今の香澄。
一方の芹沢涼と言えば、あの日も今も、髪型やメガネの有無こそ違えど、綺麗な芸能人のような顔立ちにシュッとしたスタイルの良さは健在だ。
それに、先ほどのような美女と一緒の職場で働いている人だ。
あんな美女に囲まれているくらいなら、たった1回抱いただけの女など、忘れている。
それどころか、今日までこの人はきっと、たくさんの美女をベッドで喜ばせただろう。
香澄を抱いたのと同じように。
そんな風に、香澄の思考はぐるぐると深い沼に落ちていきそうだった。
咄嗟にメモ帳を取るフリをして、香澄はネタ帳を取り出した。
香澄が作り上げたリュウの設定資料と、香澄自身を投影したヒロインとのやり取りをさっと眺めて、心を落ち着かせた。
(そうだ。ここに、私のリュウがいるじゃないか)
香澄が綴った文字によって作られた、あの日のリョウをモデルにしたリュウは、決して変わることなくヒロインに愛を囁いてくれる。
香澄が考えた通りの姿になり、考えた通りに動いてくれる。
一切香澄自身にストレスを与えることのない恋を、香澄はリュウの小説を書くことでしており、癒されている。
それで十分ではないか、と香澄は考えた。
そして思った。
(三次元でもう1度会いたいなんて、おこがましすぎた)
こうして並んでみて、香澄は分かった。
香澄の方を一切見ることもなく、冷たい表情を崩さないまま香澄の母親の声を聞き、事務的に応対している姿からは、香澄への関心は感じられない。
最初こそ、それが切ないと思ったものの、それが数十分も続くと
(このまま、私のことはどうか忘れていて欲しい)
それがお互いにとって良いことなのだと、香澄は確信を持ちながら、芹沢涼が香澄の母親の弁護士として正式に契約が結ばれる瞬間を、他人事のように見守っていた。
「それでは、次のお約束はお電話で」
「はーい」
香澄の母親は、大層ご機嫌な様子で立ち上がった。
香澄も、母親に続いて立ち上がった。
もう2度とここには来ないという決意を固くしながら。
「さ。香澄ちゃん」
(やめて、ここで名前を呼ばないで)
「ご飯でも食べて帰りましょうか」
もちろん、香澄の奢りで。
そう言いたげな目で香澄を見た。
逆らうことは許さないという圧も視線で感じた。
「分かった……」
そうして、香澄が母親の次に事務所から出ていく扉に手を触れた瞬間だった。
(え?)
いきなり、肩をつかまれた。
振り返ると、芹沢涼が香澄を見下ろしていた。
香澄は、淡々と自分の母親が語る情けない話を黙って聞いている芹沢涼の表情から、彼の考えを読み取る努力をした。
しかし、徹底された芹沢涼のポーカーフェイスっぷりのせいもあり、なかなか香澄は思うように彼の考えを掴むことができそうに無かった。
まるで自分でオペラを演じているのか、とつっこみたくなるほど、オーバーリアクションでいかに自分が不幸かを大げさに説明する母親と対比をするのも辛かった。
(私は、結局こっち側の人間だと思われてるんだろうな……)
香澄は、訳もなく涙が出てきそうになったのと、ムカムカがまた始まったのもあり、急いでハンカチを掴み口元を抑え、もらったお茶を飲み干すという行動を繰り返すことで気を紛らわせることだけに集中した。
(早く、この地獄のような時間が終わって欲しい)
クリスマスの日の香澄は、付け焼き刃とは言え、確かに香澄史上オシャレは頑張った日だった。
だから、見られる容姿には少しは近づけていた。
だが今は違う。
あの日から体重も減っている。
頬もしっかりこけている。
隈もくっきりできている。
大学生が着るリクルートスーツすら、ぶかぶかでしっくりこない。
いつ襲ってくる吐き気に怯えているから、化粧すらもうまともにはできない。
それが、今の香澄。
一方の芹沢涼と言えば、あの日も今も、髪型やメガネの有無こそ違えど、綺麗な芸能人のような顔立ちにシュッとしたスタイルの良さは健在だ。
それに、先ほどのような美女と一緒の職場で働いている人だ。
あんな美女に囲まれているくらいなら、たった1回抱いただけの女など、忘れている。
それどころか、今日までこの人はきっと、たくさんの美女をベッドで喜ばせただろう。
香澄を抱いたのと同じように。
そんな風に、香澄の思考はぐるぐると深い沼に落ちていきそうだった。
咄嗟にメモ帳を取るフリをして、香澄はネタ帳を取り出した。
香澄が作り上げたリュウの設定資料と、香澄自身を投影したヒロインとのやり取りをさっと眺めて、心を落ち着かせた。
(そうだ。ここに、私のリュウがいるじゃないか)
香澄が綴った文字によって作られた、あの日のリョウをモデルにしたリュウは、決して変わることなくヒロインに愛を囁いてくれる。
香澄が考えた通りの姿になり、考えた通りに動いてくれる。
一切香澄自身にストレスを与えることのない恋を、香澄はリュウの小説を書くことでしており、癒されている。
それで十分ではないか、と香澄は考えた。
そして思った。
(三次元でもう1度会いたいなんて、おこがましすぎた)
こうして並んでみて、香澄は分かった。
香澄の方を一切見ることもなく、冷たい表情を崩さないまま香澄の母親の声を聞き、事務的に応対している姿からは、香澄への関心は感じられない。
最初こそ、それが切ないと思ったものの、それが数十分も続くと
(このまま、私のことはどうか忘れていて欲しい)
それがお互いにとって良いことなのだと、香澄は確信を持ちながら、芹沢涼が香澄の母親の弁護士として正式に契約が結ばれる瞬間を、他人事のように見守っていた。
「それでは、次のお約束はお電話で」
「はーい」
香澄の母親は、大層ご機嫌な様子で立ち上がった。
香澄も、母親に続いて立ち上がった。
もう2度とここには来ないという決意を固くしながら。
「さ。香澄ちゃん」
(やめて、ここで名前を呼ばないで)
「ご飯でも食べて帰りましょうか」
もちろん、香澄の奢りで。
そう言いたげな目で香澄を見た。
逆らうことは許さないという圧も視線で感じた。
「分かった……」
そうして、香澄が母親の次に事務所から出ていく扉に手を触れた瞬間だった。
(え?)
いきなり、肩をつかまれた。
振り返ると、芹沢涼が香澄を見下ろしていた。