二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「あ……の……」

 ポーカーフェイスのままではあるが、香澄は芹沢涼からほのかな怒りのオーラを感じていた。

(な、何……?私……何かした……?)

「申し訳ございません、小森様」
「は、はははい……」

(しまった、また吃った……!)

 香澄は、緊張すると吃ってしまう癖をどうにかしたいと思っていた。
 咄嗟に香澄が自分の手で口を塞いだところで

「忘れ物がありますので、少し残っていただけますか」

 今度は芹沢涼が口を開いた。
 
「はい……?」

(忘れ物?)

「あの、それって……」

(お母さんのじゃなくて、私の?)

 香澄は急いで自分の鞄の中を漁った。
 今日は大して荷物を持ってきてはいない。
 先ほど出したネタ帳も、電子マネーとしても機能しているスマホも、八島から前回の誕生日プレゼントでもらった少しお高めのボールペンもしっかり入ってた。

(やっぱり。私が忘れ物をしたわけじゃなさそう……?)

「あああの……それって母の忘れ物ってことですよね?」
「あらやだ、何を忘れたのかしら」

 香澄はとても慎重だ。
 基本的に、忘れ物をしないように、指差し確認は欠かさない。
 一方で香澄の母親は後先考えず、思った通りに突っ走るタイプ。
 そんな人なので忘れ物はしょっちゅう。
 だからこの場合、香澄の母親が忘れ物をした、という解釈の方が自然だと、香澄も香澄の母親も考えていた。
 ところが、そんな香澄と香澄の母親の言葉に、芹沢涼が首を横に振りながらこう言った。

「忘れ物をしたのは、娘さんの方です」

(え!?)

「お母様、少しお時間をいただきたいのですが、先に行ってもらえますか?」
「は、はあ……?」

 香澄も母親も困惑したところで

「小森様、こちらへお越しください」

 と、香澄が最初せりざわ先生だと勘違いした美女が現れ、香澄の母親だけを連れて行ってしまった。
 こうして、芹沢涼と取り残された香澄は困惑した。

(これは一体どういう状況!?)

「あの、先生……私の忘れ物って一体……」

 香澄が口を開いた瞬間だった。
 芹沢涼は、香澄の手首を掴み、先ほどまで香澄が座ってたソファに無理やり座らせた。

「ちょ、ちょっと待ってくださ」

 香澄が顔を上げたと同時に、香澄が見覚えがあるメモと茶封筒が差し出された。

「これ……は……」
「忘れ物その1、その2です」

 香澄は、差し出されたそれらを恐る恐る受け取った。
 そして中身を確認してすぐ、血の気が引いた。

「こ、これ……は……」
「お心当たり、ありますよね」
「いえ、あのこれ……は……」

 香澄の声は震えた。
 違います、と言うべきだと、分かっていた。
 でも、それを言うと嘘になることに、香澄はもう気づいてしまった。
 震えた筆跡で書かれた、今夜はありがとうの文字。
 それから茶封筒には数枚のお札。
 12月25日の朝、香澄があのホテルのロビーに置いて逃げたものだった。

「あ、あの……ええと……失礼します!」

 香澄は、それらをソファに置いて逃げ出そうとした。
 でもそれを、芹沢涼は許さなかった。

「それから忘れ物その3は……僕ですよ。…………香澄」

 芹沢涼は、自らの腕で香澄をソファに閉じ込めてしまった。
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