90日のシンデレラ
 「時間的にはこれで終わりかな~」

 運転をしながら、そう北峰がつぶやく。彼の声にもどこか残念な色合いがある。光の退行と呼応するように。
 助手席からみていても楽しい夜の光景は、ドライバーも同じだったらしい。

 「三周目には消灯時間だから、ほぼ真っ暗だ。帰るけど、いい?」
 「はい。二回もみせてもらえましたので、充分です。ありがとうございました」
 「いやいや、楽しかったのなら、いいよ。こちらこそ、お付き合いありがとう」

 三周目には灯りは消えている。そう告げられて、真紘もなんだか寂しい感じがした。眠らない町とはいうけれど、やはり眠りの時間は平等に訪れるのだと。

 (イルミネーションは消えるとしても……)
 (それでも、一晩中働いている人はいるはず)
 (みえないところで、町は動いている。決して眠っているわけでない)

 なんとなくそう思う。

 (あ、星?)

 ヒルズ地区の明かりがまばらになると、ぽつりぽつりと小さな光点が現れだす。時間となって派手なイルミネーションは消えても、常夜灯は残っている。今みえる星も、きっとこれも星ではなくてどこか遠くの常夜灯の小さな光かもしれない。

 ルーフウインドウに現れては流れて消える控えめな光を、そのままシートに仰向けになって真紘は眺めていた。一連の光の動きがショーの終わりのエンドロールのようで、なぜだか目が離せない。

 クーペは走る、先と変わりなく滑らかに。

 (あ、そういえば、缶チューハイ飲んでたんだった)
 (そのせいなのかな?)
 (夜景見学が終わったとたんに、なんだか眠い……)

 酒の酔いのせいというよりも、集中力が切れたのだろう。うっかりシートを倒してしまっていたせいで、車の振動がハンモックの上で揺られているような気分だ。とても気持ちがいい。

 「シーナちゃん、この先で事故渋滞が起こっているみたいだから、迂回して帰るよ」

 北峰がそうルート変更を告げるも、とっくに真紘は夢の中に沈み込んでいた。
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