90日のシンデレラ
 メンズと違ってレディースはセレクトショップになりますと、続けてスタッフがいう。
 もともとメンズもレディースも、オーダーと既製品(レディーメイド)の両方を扱っていたとのこと。しかし現在は、メンズはオーダーのみ、レディースは既製品のみだ。
 それに合わせてフロアの造りを変えて、メンズはひっそりとした隠れ家風の工房に、レディースは通常のテナントにしたのだと。
 明るい陽ざしの中で、店の表情の変化に真紘は一瞬あっけにとられたが、すぐに瑠樹のセリフを思い出した。

 一番素敵だと思う服を教えてよ――あれは瑠樹を待つ間の、真紘の手持ち無沙汰を解消するためのものだろう。
 でもこれって、考え方次第では、なかなかひとりでは入ることのできない高級セレクトショップを散策できるということではないだろうか?
 買う買わないは別にして、瑠樹を待つというも名目で興味のままにここの服をみてもいいことになる。
 さすがオシャレ男子、女性への気遣いもオシャレすぎる!
 目の前のきれいな服にすっかり女心をくすぐられて、真紘は目を輝かせた。

 (やっぱり東京、デザインの幅が広い!)
 (田舎だと、在庫を心配して無難なものしか置かないもんね~)
 (あの人形が着ているの、なんて斬新!)

 梅雨時期であれば、ショップはほぼ夏物だ。一部に春物衣料も残っているが、今すぐに着替えたくなるような服がたくさんある。
 本日の真紘の服装は、とりあえずのスカートだ。とりあえずだから、形は無難なAラインスカートで色は紺。そこにオフホワイトのカットソーを合わせてONもOFFもどちらでも対応可というもの。リーズナブルといえばリーズナブル、オシャレかといえんば……

 (これって、デートには程遠い格好よね。仕事場から抜けて出てきたって感じだし)

 店内のあちこちに立てられた姿見をチラ見して、真紘は思う。

 (デートであるのなら、やっぱり……)

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