90日のシンデレラ
 着替えてから有無をいわさずここまで連れてこられたものだから、今さらながらに真紘は周囲を見渡した。
 今いるこの席は、切り立ったビルの断崖に囲まれたところにあるベランダ席だ。窓の少ないビルの裏側に囲まれているから、外部の視界がそう気にならない。さらに日よけのパラソルもある。これもまた『特別』とか『隠れ家』とかを彷彿とさせる。

 (そういえば、私たち以外にお客さんはいない)
 (ここって、オーダー客専用の待合室としても使っているのかも)
 (併設しているっているから、もっと人の出入りがあると思っていたのになぁ)

 高級セレクトショップで一番気になった服を着て、ほぼ貸し切り状態のカフェにて食事をする。
 店を何かのイベントで貸し切りにすることはあっても、今のような貸し切り方は自分の田舎ではありえないと真紘は思う。そもそもが、こんな高級ショップが田舎にはないのだ。それは客層についても同じことがいえて……

 (本社の人間でも北峰さんは、地位も待遇もかなり上なんだろうな~)
 (若くしてヘッドリーダーに抜擢とは知っていても、それ、私が想像していた以上みたい)
 (それに……)

 それに、真紘は再び思い出す。真紘にこのワンピースを着せたスタッフのセリフを。

 ――北峰様は、お金持ちなんで遠慮しなくていいですよ。
 ――むしろ変に遠慮してしまうほうが、北峰様の気分を損ねてしまいますので。
 ――だから、正々堂々と頂戴しておけばいいんですよ。

 瑠樹からのプレゼントだといわれて、一度は真紘は遠慮した。ワンピースに値札が付いていないから、金額はわからない。でも決して安くはないだろう。
 でもスタッフの返事は、先のとおりだ。このセリフから「北峰はお金持ちだから、その程度の額、何ともない」というのが、ひしひしと伝わってくる。

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