90日のシンデレラ
 事前に、「カフェだから軽食しかなくて、食べ足りないかもしれない」といわれていた。事実、プレートはあっという間に空っぽになる。
 このオープンサンドは、女の真紘でも腹八分目にまでもう少しというところ。男の瑠樹なら、きっと物足りない。「デザートはどう?」という瑠樹のセリフに、真紘もうなずく。
 デザートのアイスが届くまで、今がいいチャンスだと真紘はこう切り出した。

 「私、北峰さんのカノジョということですが、本当にそうなのですか?」

 変な質問だと思う。
 一緒に買い物にいき、プレゼントをもらい、食事を半分こする。電車内と違って今の真紘は素敵なワンピースを着ていて、瑠樹と並んでもそうちぐはぐではない。今ここにあるのは、ごくごく普通の仲睦まじいカップルの姿だ。
 でもこれに至るまでの経緯は、通常とはかなり事情が異なる。

 真紘としては、自分が正真正銘の瑠樹のカノジョなんだと自覚できるならば、目の前にいるカッコイイカレシのことを嬉しく思うし、瑠樹のことを『百パーセント好き』になれる。
 でも実際は違っていて、真紘は完全に瑠樹のことを『完全に好き』になりきれいていない。
 だって、瑠樹から「気になっていた」とか「お付き合いしてください」とかいう決定的なセリフをもらっていないから。もらったのは「今から俺はシーナちゃんのカレシ、シーナちゃんは俺のカノジョ」という告白を飛ばした決定だった。

 「そうだけど、嫌?」

 何を今さらという表情で、そう瑠樹が訊き返してくる。小さな含み笑いをして、真紘の行動のひとつひとつを面白がる瑠樹がここにもいた。

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