90日のシンデレラ
 仕事を褒められて、恐縮して、照れから真紘は視線をアイスクリームの器に落としていた。
 だがここにダサいと続けられて、下げた視線の意味が変わってしまう。新たに出てきたのは、イケてない田舎娘であることへ恥ずかしさ。真紘の視線はもっと下がってしまう。
 スプーンを握ったまま、最初のひと口を食べただけで真紘はアイスを口に運べなくなくなっていた。年頃の女子だから、仕事の高評価をもらってもルックスのダサさの慰めにはならないのだ。

 「ああ、ごめん。いいすぎた」

 意気消沈し小さくなった真紘にすぐに気がついて、瑠樹が謝った。
 と、同時に大きな熱の塊が動く。それに合わせてふわりと空気も揺れる。
 なにが起こったのか、あっと思った瞬間には、瑠樹の大きな手のひらが真紘の頬を包んでいた。

 (え?)

 「悪い。こういうところ、デリカシーがないって、いつもカマリに怒られいるってのに忘れてた」

 つうっと、瑠樹の空いた手のほうの指先が真紘の頬を下からなぞる。瑠樹の人差し指が、こぼれ落ちていく真紘の涙を拭い取っていた。

 (え?)
 (私、泣いていた?)

 涙の跡がきれいに消えてしまえば、頬に触れていた熱量が去っていく。
 優しく瑠樹に涙を拭われて、真紘は自分が泣いていたことに気がついた。
 仕事のことを褒められてとても嬉しかったが、「チョーイケてない」という言葉に、自分は耐えられなかったのだと知る。

 自分は田舎者で、都会に慣れないなくてスマートに物事をこなすことができないのは、重々わかっている。わかっているから、この企画開発研修に乗り気でなかったのだ。
 否応なしに本社まで呼び出されて、毎日の仕事で真紘は精一杯。東京出向が自分を磨く絶好のチャンスであったとしても、そこまでたどり着く余裕などなかった。それをズバリ指摘されて、ショックを受けて、悲しくなって、思わず涙が出てしまっていたのだ。

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