90日のシンデレラ
 隣に誰かいてほしい――この瑠樹のセリフが、真紘の心に揺さぶりをかける。ひとりではなく誰かと喜びを分かち合いたい、その相手が真紘であってほしい。どう解釈しても、瑠樹のセリフはそれにしかならない。
 かすかに動いた真紘の瞳を、瑠樹は見逃してはいなかった。ここぞとばかりに、瑠樹は追い撃ちをかけた。

 「あ、元気出てきた? もっというよ。運転している横で、目を大きくして、赤くなったり青くなったりしている真紘をみるのは面白かった。運転の邪魔も一切しないし、気持ちよく運転できた」

 マニュアル・ドライブに乗せられてドキドキし、運転の邪魔になってはと真紘は大人しくしていた。これは、正解だったらしい。正解な上に、意図せずして好印象まで与えていた。

 「ルーフのでっち話は信じるし、ドライブのお返しをお願いしたらカノジョに悪いというのも、可笑しかったなぁ。第一印象が大人しい子会社社員だったから、あの挑発的なレポートを本当に真紘が書いたのかと疑っていた。だけどキスを拒まれたときに納得した。その頑固さ、通ずるものがある。真紘は、良くも悪くも真面目なんだなぁ~って思った次第」

 車中での真紘の言動のひとつひとつを、瑠樹は苦笑を交えていう。
 それは褒めているのか、貶しているのか?
 確かにガラスのパノラマルーフについてのあれこれは、無知な田舎者丸出しだった。それは、してやられたで真紘は許容できる。

 でも「カノジョが悲しい思いをする」ようなこと、つまり瑠機とキスすることは、なにがなんでも回避の真紘であった。それは、今でも変わりない。
 あのときの真紘は真紘なりに、筋を通していただけのこと。真紘としては極めて常識的な振る舞いをしたつもりだったのだが、瑠樹のほうは恋愛に崇高な態度にみえたらしい。

 (だって、雰囲気に流されてキスなんかしてしまったら……あとで修羅場になってしまうかもしれないじゃない!)
 (カノジョの確認は、大事だよ!)

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